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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部9話『声なき占領地、現れた少年』
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第3幕『沈黙の村に、誰かが居る』


 村は、死んでいた。


 ……それが、最初に感じた印象だった。


 家々は倒れていない。火の手が上がった痕跡も、武力で蹂躙された跡もない。


 けれど、それでも——この村は、もう“生きていない”のだ。




 軒下に吊されたままの洗濯物は、色褪せて風にさらされていた。

 戸が半開きのままの家がいくつもあり、庭には割れた植木鉢や転がったおもちゃ。

 そして何より——音が、ない。



 「……誰もいねぇな」



 ぽつりと呟くと、鞘の中のセブンが答えた。



 《分析:当ユニットの探知圏内には、人型動体及び敵性体は確認されない》


 

 俺は、少しだけ間を置いて尋ねた。


 「……“もう動かなくなった”人型個体は?」


 《補足:当ユニットのパッシブスキャンはヒッグスフィールド計測を基本とする。静止物体に対するスキャン精度はやや劣る》


 「いいから。確認してくれ」



 一瞬の沈黙——



 《……確認されない》



 俺は小さく息を吐いた。


 


 村の中心に、小さな井戸があった。

 木の蓋が無理やり釘で打ち付けられ、縄と桶は取り外されていた。

 まるで、「ここから水を飲むな」と言わんばかりに。


 さらに、村の入り口に立っていたであろう看板は、杭だけを残して折られていた。

 名前を消され、存在を否定された村。その痕跡。



 それでも——



 「……戦った形跡がねぇな」


 俺はぽつりと呟く。


 どの家にも、戦闘の痕はない。むしろ“生活の途中で止まっている”。



 縁側には干しかごの中に、乾きかけた食器。

 土間の竈には、焦げついた鍋。


 家の中をのぞくと、布団が敷かれたままだった。シーツには、まだ寝返りの跡が残ってる。


 逃げた? ……それとも。


 

 「リクさん」


 背後から、エナの声がした。


 彼女は、小さな祠の前でしゃがみ込み、何かをじっと見つめていた。



 それを見て、オレは目を見開く。


 その祠には、綺麗な花が供えられていた。しおれてはいない、確実に“つい最近”のものだ。



 誰かが、ここに居る。

 ……あるいは、ついさっきまで居た。

 


 緊張感が、ジワジワと背筋を這い上がってくる。


 俺は、ゆっくりと鞘に手をかけた。



 「セブン。広域再スキャン。動体に限らず、建物内部も全部だ」


 《了解。走査開始——》



 その直後だった。


 ——建物の影から、“それ”が現れた。


 すっと。

 何の前触れもなく。

 音もなく、まるで最初からそこにいたように。



 それは……少年だった。



 10歳くらい。黒髪。ボロボロの服。裸足。

 だが、汚れているのに妙に整った顔つきで——その瞳だけが、異様に冷たい。



 一瞬、俺もエナもアリスも動きを止めた。キョトンと、脳が事態を処理できなかった。



 ——その場にただ立っているだけ。



 しかし、すぐに背後の空気がピリつく。



 「セブン! スキャンは!?」


 即座に問いかける。


 《報告:直前まで該当座標に人型動体は存在せず。

 補足:該当個体は“突如そこに現れた”とする以外に適切な表現はない》


 ざわっ、と肌が粟立つ感覚。


 「気配がなかっただけ……? いや、違う。転移か何かか……?」



 見た目は少年。だが、それが“ただの子供”じゃない。

 この状況がそれを物語っている。


 ——この村は、“完全に無人”ではなかった。


 目の前の“何か”が、それを証明していた。



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