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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部8話『斬光輪舞(ザンクロリンダ)』
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第4幕『燃える街と、俺たちの一手』


 ズゥゥゥッ——という音とともに、敵の体が膨らみ、高濃度の気体を噴き出す。

 その量は尋常じゃない。目の前が霞むほど、視界が全部緑がかったガスで埋まった。


 あれは流石にヤバい……!!




 「エナ!!いったん引け!!」


 《警告:これ以上は危険区域。接近は推奨されない》


 「あれが住人の方に流れたら……!!」



 クソ……どうする。

 ガスがこのまま広がれば、街ごと……!

 


 「セブン、オマエをあの毒ガスの中心に突っ込ませるとして、何秒いける?」


 《解析:現状の表面耐性。500ミリ秒で不可逆な腐食ダメージ》


 「0.5秒か……くそっ短えな!」


 《補足:ユニット完全停止までは57秒。充分な余裕がある》


 「命捨てるまでの時間を、"余裕"とは言わねぇんだよ!!」



 でも……このままじゃ大勢の人達が死ぬ……。



 イチかバチか……いや。


 そうだ……さっき買い出しで街を回ったとき、見た。

 通りの裏手、たしか、革なめし工房があったハズ——


 


 すぐに走った。

 軋む扉を蹴り破り、散らばる道具と木箱の奥、樽の中の白い液体を見つける。



 「セブン!!これ……石灰水か?」


 《確認:石灰・重曹の混合液、pH:11〜12程度。強アルカリ性》


 

 樽の横に、作業用の革手袋。

 その手袋を引っ掴み、セブンをまるごと樽の中へ突っ込んだ。


 ぶわ、と白い蒸気が上がる。蒸気が薄く消えたあと、表面に透明な薄膜ができていた。



 「いまオレが考えてる事、わかるか!?」


 《推定済:ユーザーの思考傾向および状況判断より、意図の90%以上を特定》



 「……いけるか!?」


 《成功率:82%——充分に実行可能と判断。失敗時のリスク:片道切符》


 「だから、オマエの警告、地味に怖えよ!!」



 「……でも、他に打てる手はねえっ!」



 扉を蹴り開け、通りに飛び出す。

 瓦礫越しに、黄緑色の雲の向こうをにらむ。


 


 「よし……行くぞ、セブン。全力で“ぶちかませ”!」


 

 《質量設定、最大値:1,000ペタグラム。展開時間:ガス雲接触から2.5秒》


 


 「飛んでけぇぇえええっ!!!」


 


 俺は全力でセブンを、ガスの中心へと——投げつけた!


 

 風を切る音が、街の空に鳴り響く。



 そして——


 


 《質量増加フェーズ》



 ——ズン!!!


 

 見えない重さが、大気を中心に引き寄せる。


 《断熱圧縮による温度上昇:753ケルビン。周囲の気体は発火点に迫る圧力下に到達——》


 ガスが一気に集まり、限界まで詰まった瞬間——


 《爆縮完了》



 ——ボンッ!!



 ……爆発音が、響いた。



 ——ドオォォォンッ!!!


 閃光。


 地鳴り。


 赤い火柱が、爆心から空へ向かって吹き上がる。


 

 「っ……!?」


 

 俺はその場にしゃがみ込み、耳を塞ぎ、口を開けて目をつぶる。


 ——爆風に備える、最低限の動作だ。



 だが——


 


 しゅんっ、と風を切る音。


 気づけば目の前にいたのは、特大のブレードに戻ったエナだった。


 その背には、すでにアリスが乗っている。


 

 オレは、こちらへ伸ばしてきたアリスの腕を、ガッチリ掴み、強引に——空へ!


 


 「うおおおおおおおッ!?」


 


 爆心を離脱。風と熱気を切り裂くように、エナは高く、高く跳び上がる。


 下に見えるのは、赤い地面と黒煙の渦。焼け焦げた瓦礫が、まるで星のように舞っていた。


 


 やがて……爆風が過ぎ、空が静けさを取り戻す。


 


 俺たちは、屋根の上に着地した。



 「……ふぅ」



 手足が、まだ震えている。


 膝が笑ってる。もしエナがいなかったら、俺はもう……たぶん、この世にいなかった。


 

 アリスと二人でエナの背に乗り、爆心地——セブンの元に降りる。

 


 《敵性体の痕跡、消失を確認。戦闘完了》


 


 「……やるな、セブン」


 《相棒の適切な戦略立案を評価する》

 


 「……今、なんて?」


 《先日、ユーザーが示した"相棒"の定義を参照。状況的に、当ユニットがユーザーを同様に呼ぶのは妥当と判断》


 

 「……お、おう」


 思わずニヤけそうになったのを、火照った顔のせいにした。



 「リクさ〜〜んっ!! カッコよかったですぅぅ〜〜!!」



 ドカンと、いつのまにか人間の姿になったエナが、背後から俺に抱きつく。


 重い、けど……あったかい。


 

 「……むぅ」


 アリスがちょっとだけそっぽを向いた。


 その頬が、ほんのり赤かったのは、火のせいだろうか。



 「やっぱ、いいな。俺たち——ちゃんと、戦えてる」



 膝はまだ震えてるけど。

 今だけは、この余韻を味わっていい気がした。


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