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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部8話『斬光輪舞(ザンクロリンダ)』
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第2幕『かみ合わぬ三位一体』


 「アリス、左! 詰めるぞ!」


 「了解!」



 俺の掛け声に応じて、アリスがすっと踏み出す。

 リボンがほどけ、スカートの裾がひらりと舞った。



 両腕の袖とスカートの一部が自動でパージされ、アリスの脚部・腕部に仕込まれたワイヤーユニットが露出する。

 二の腕と太ももから、鋼のワイヤーが射出され、空中に一直線の軌跡を描いた。


 

 「二本で囮、一本で制止!」


 

 アリスの声に合わせて、ワイヤーが建物の柱に突き刺さる。


 直線的に空間をなぞるワイヤーの先端には、鋭利なブレード。

 街路に六角形の陣のような軌跡が刻まれていく。



 「あいつ、こないだの戦場にも何体か居たな……」


 無理矢理連れて行かれた、前線。

 アイツ、妙に胡散臭い白衣の男が、このタイプの魔物だけ、なぜか見つけ次第、優先して燃やしてた。


 その光景が、妙に印象に残ってる。


 

 《追撃:三時方向。質量調整準備。迎撃を》


 「よっしゃ!」


 

 俺はセブンを振るい、跳ねるように空へ浮いた。


 セブンが質量を一瞬だけ上げ、俺の身体が跳ね上がる反動を加速させる。



 「はああああッ!!」



 振り下ろし。

 全力で。



 狙ったのは魔物の肩口——

 だが、質量斬撃はわずかに逸れて、腫瘍のような部位を削っただけに終わった。



 「チッ、硬っ……!」


 《構造解析:表皮は高硬度、だがその下層は脆弱。正確な貫通が必要》


 「それができりゃ苦労しねぇ!」



 魔物が振り向く。

 全身の腫瘍から、ぶちゅっ……と音を立てて液体が噴き出した。


 「毒液か!? アリス、下がれ!」


 「対応します!」


 

 ワイヤーで跳躍し、アリスが上空へ逃れる。




 だが——


 「わ、セブン!? お前……!」


 《被弾:腐食成分検出。刀身一部に劣化》


 

 セブンの黒い刀身の一部が、しゅうう……と白煙を上げる。


 攻撃力を殺がれる。

 速度も、間合いも、すべてがズレてくる。


 

 「くそ……!相性悪すぎだろ……!」



 外壁を蹴って、跳ぶ。

 軒先の瓦を踏み、雨どいを蹴って、もう一度——跳躍。


 

 「……届かねえか!」


 

 セブンを振るって、空中でバランスを取る。

 右手の感覚が重い。いつもより、重心がズレてる。


 《報告:刀身腐食により、重量バランスに偏差》


 「わかってる!!」


 

 振り下ろしたセブンは、魔物の肩口をかすめただけだった。


 「クソッ……っ!」



 パルクールで翻弄しながらの斬撃——

 それが俺とセブンの基本戦術。


 それでも通らなければ、質量で棍棒のようにぶつける戦法もある。

 だが、あの腐食液じゃそれも無理だ。刀身そのものが壊れる。


 

 「アリス、ワイヤー!足場頼む!」


 「了解!」


 

 アリスの太ももから鋼線が射出され、空中に斜めの軌道を描く。

 俺はそれを踏んで、もう一度、飛んだ——が。


 《警告:ワイヤー端部に腐食影響。安定性低下》


 

 「うおっ……!」


 

 ズルリと足を滑らせ、ギリギリで屋根のへりを掴む。


 エナと空から攻める——いや、セブンの斬撃が通じなきゃ一緒だ。

 

 超質量爆撃——地面に激突させて戦場ごと潰す、最後の切り札。

 けれど、市街地でそんなの使えるはずもない。

 


 「……相性が悪い……」



 魔王幹部カイザのほうが、はるかに格上。

 目の前の敵は、良いとこ中級兵、って感じだ。


 でもあのときは、エナと連携して空を取り、最後はセブンの質量特攻で倒した。



 「相性次第で……ここまで苦戦するのか……」



 魔物が、こちらを睨むように振り返った。

 全身に腫瘍。毒液の噴出。柔らかく見せて、その実、外殻は高硬度。



 「リク、下がっください!」


 アリスの声。

 次の瞬間、魔物の跳躍が俺を狙ってきた。


 ——いや、違う!俺じゃない!!


 魔物が地を蹴って向きを変える。



 「アリス!!」



 間に合わない!

 あの硬質な跳躍に、アリスのワイヤー機動では——



 その時。


 「間に合いましたッ!!」



 若竹色の閃光が、横から飛び込んできた。



 「エナ……!」


 エナの姿が、アリスと魔物のあいだに割り込んでいた。



 「エナ!避けろ!お前、その姿じゃ——」


 「大丈夫ですッ!!」



 彼女の鎧が、光を纏う。

 各部パーツが、空中で浮かび上がった。



 胸甲、肩鎧、脛当て、ガントレット……

 全てが独立し、まるで重装歩兵が列を組むように、前方へと展開する。



 「防壁盾、展開——!」



 浮遊する鎧の破片が組み合わさり、前方に巨大な盾の形を構築する。

 魔物の体当たりが、その壁に直撃した。



 ゴゥンッ!!



 衝撃とともに、地面が波打つ。

 石畳に亀裂が走り、周囲の窓が一斉に割れた。



 けれど、盾は崩れない。


 鎧をパージしたエナの幻影のような体が、盾の中央で踏ん張り続けていた。



 「皆さん、無事ですかッ!?」



 その声が、戦場に響いた。



 俺も、アリスも、呆気に取られていた。


 

 「エナ……」



 ほんのさっきまで、笑顔でじゃれついてた少女が、

 今は——俺たちの前に、立っていた。


 

 「今度は、あたしの番です!」



 後方に浮かぶ鎧たちが、一斉に回転を始める。

 そこに光の陣が重なり、彼女の“本気”が、起動する——


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