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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部8話『斬光輪舞(ザンクロリンダ)』
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第1幕『グラビティ・ヒーロー起動』


 「きゃああああああっ!!!」



 悲鳴は、石畳の向こうからだった。

 街の中心部、広場のほう。


 何人かの人が駆けてくる。手を引かれた子ども、荷物を投げ出して走る老婆、そして——


 

 「……魔物だ!! 市壁を越えて入ってきたぞ!!」


 

 叫び声が飛ぶ。

 その瞬間、通りの空気が一変した。


 軽やかだった買い物袋の音が消え、馬車の車輪が止まり、広場へと続く道から血の気が引いていく。



 「アリス!こっちに来るぞ!」


 「了解!」



 俺たちは荷物を放り投げて、通りを駆け出した。

 踏みしめる石畳の感触。鉄と汗と焦げた獣脂の混じった匂いが鼻を突く。


 視界の奥、建物の影から——


 

 ぐおおぉおおああぁっ……!!



 濁った咆哮が響いた。


 現れたのは、獣と虫を掛け合わせたような奇形の魔物だった。



 デカい……。

 背中が平家の屋根に届きそうなくらいの巨体。


 背中からは、昆虫を思わせる巨大な翅が二対。

 しかし、あの翅で飛行できるとは思えない。


 皮膚は斑の黒と赤でただれていて、口元からは緑色の泡を垂らしていた。


 前脚は妙に太く、跳躍でも突進でもできそうな体勢。

 目は、……ない。



 「視覚じゃなく、熱か音で探ってるタイプだな……!」



 俺は身を低くして隠れながら、セブンの柄に触れる。


 

 「アリス、周囲に逃げ遅れは?」


 「右手の倉庫裏に子どもが一人! ……泣いて動けていません!」


 「任せてもいいか、エナ」


 「はいっ!」


 

 即答だった。


 エナは腰のマントをたなびかせ、軽やかに駆け出した。

 重装の鎧とは思えない俊敏さで、跳躍しながら木箱を飛び越えていく。


 陽光を弾く銀の三つ編み、風を裂く動き。


 

 「アリス、こっちは頼む。エナが戻るまで、前線は俺たちで持たせる」


 

 そして——


 

 《起動確認。戦闘用構成、即時転換可能》


 

 俺はセブンの柄を引き抜いた。


 

 「グラビティヒーロー、見参ッ! いくぜ相棒ッ!!」


 《Higgs field stabilized. Ether pathway aligned.

 Reboot complete──出力調整フェーズ、起動》



 刀身の表面に、青白い光が走る。

 瞬間、周囲の重力がふわりと変わった。


 風もないのに、俺の髪が、服が、浮く。

 半径二メートルの空間だけが、一瞬だけ“無重力”になる。


 

 「さて……こっちも準備完了だ」


 

 セブンを構えたまま、俺は魔物の正面へと歩み出た。

 その巨体がこちらに気づき、低く、唸る。


 

 《敵性個体の挙動に異常。ダメージの蓄積により、方向感覚を喪失している可能性が高い》


 「……手負いで逃げてる途中で、こっち迷い込んだんだな」


 

 重い空気が、街路に満ちる。

 人々が後ずさり、誰もが次の一手を待つ中——


 

 「行こうぜ、セブン」


 《応答:全質量チャンネル、戦闘仕様に再接続》



 地面を蹴った。



 戦闘開始だっ!!


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