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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1話『世界でいちばん重たい相棒』
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第3幕『黒曜の刃』

 

 剣が浮いてる。そよ風に乗った羽根みたいに、フワフワと。



 重そうに見えるくせに、音もなく。

 まるで意志があるみたいに、男の子——

 "リクくん"の正面で止まった。


  ……あれ。


 ふと、さっきアストライアグラスから聞こえてきた通信を思い出した。



 「……もしかして、さっき話しかけてきたのって……この子?」


 私は宙に浮かんだ黒い剣を見上げた。


 リクくんが、その剣に向かって少し手を伸ばす。


 「見た目は、ただの剣みたいだけど……」



 私は腕を組みながら、少しだけ解説を加える。


 「古代文明の遺産って、たいてい見た目がただの石だったり、よくわかんない構造物だったりするんだけど……

 これは、たぶん武器系の何か。そう思った誰かが“聖剣”とかなんとかで保管してたんでしょうね」


 「まあ、あとはご本人から聞きなさいな?」


 私はそっと手を引いて、彼に向かって促す。


 


 リクくんは目を細めたあと、ため息をついた。


 その直後だった。


 《起動中のユニットG.H.S.W. No.セブン──。

 本構造体は、旧星間戦略兵装の主砲コアを携帯用に変換したものである》


 《本ユニットは、出力制限で起動中。

 ユーザー:条件付き仮登録。動作制限中》


 

 「……ふーん。めっちゃ喋るんだな、この剣」


 リクくんは腕を組みながら、まじまじと剣を見ていた。


 

 「で、聖剣だか古代兵器の遺産だかなんだろ?

お決まりのやつ。どんなチート能力なんだよ、君は」


 そう聞いたら、その剣はぴくりと動き、ぴっと光った。


 《本ユニットは星間船搭載、質量崩壊誘導機構のフィラメントを内蔵している。質量崩壊誘導は、重力子による局所質量制御と、ヒッグス粒子の指向性放出により実現されている。それらを一時的に収束させ、本ユニットの質量制御を──》


 ……うん、もう一回言ってくれたとしても、たぶん分かんない。



 「ちょっと待って、重力子だかヒッグス粒子だとか。それ……親父が読んでる科学新聞でチラ見した気がする……」


 「なんか、重力とか質量とかに関係してる何かだろ?」



 リクくんが眉しかめてつぶやいた。



 「いや、なんで今時、紙なの?とは思うけどさ。電子にすると“手触りが死ぬ”とか言って……」


 ……えーと。

 何言ってるかは、わかんない。

 まあ、混乱してるのも無理ないか。



 《説明完了》


 「完了してないし!」


 リクくんが横で突っ込んでた。



 わたしは肩をすくめて、ひとこと。


 「自身の質量制御……つまりは、重さが変わる、ってことでしょ?」


 彼が苦笑いする。


 「……それだけ、わかった」


 「まあ、ここまで来て剣が喋っても大して驚かねーけど……

 こいつ、説明下手くそだな」

 


 「それ、めっちゃ分かる」


 私は思わず笑った。

 この理屈先行な剣、わたしもけっこう苦手。




 「ま、古代兵器って、こういうのが多いのよ」


 私は、浮かんでいる剣……なんとかセブンを横目に言った。



 「用途不明だったり、起動しても使い勝手悪かったり。

 “伝説の武器!”って期待すると、たいがいガッカリするやつ。あんまり期待しないほうがいいよ」




 リクくんが剣を見上げて、ぼそっとつぶやく。


 「なるほど……つまり、オレはひのきの棒と500ゴールドもらって世界救えって投げ込まれた、と」


 「惜しい。用途不明の細長い石と、無一文で放り込まれたのよ。ね、ヒドイ」


 

 私は手を合わせた。


 「なんかもう、いろいろごめん」


 彼は笑いもせず、でも文句も言わなかった。



 「……まあいいや。そっちも巻き込まれた感じなんだろ?」


 「うん、だいたい合ってる」


 私は笑ってごまかす。


 


 「でも、乗りかかった船だしね。ちょっとくらいは面倒、見たげるよ。リクくん」


 「リクでいいよ」



 って、ここまで言ってから、ふと思いついて、首をかしげてみた。


 「ところでさ、ゴールドって……キミの世界の通貨単位?」


 リクが、ちょっと気まずそうに頭をかく。


「いや、違うけど……気にしないで。なんか、ノリで」


 


 私はふっと息をついた。


 ——やれやれ。

 次から次へと、トラブルしか降ってこない。




 そのとき——


  ——カン……カン……カン……



 「……え?」


 神殿の外から、警鐘が鳴り響いた。

 その音が、ちょっとずつ速くなっていく。

 それと同時に、地面が、ぐらり……と揺れた。


 ただの風じゃない。地響きだ。

 外の空気が、緊張で張り詰めるのがわかる……。




——to be the next act.

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