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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部7話『銀の髪、鎧の乙女』
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第4幕『露出過多、街を歩く』



 床の上に静かに降りたブレードが、すこしだけ浮かび上がり、

 部屋の中央へと、ゆっくり滑るように移動して……その場で、ピタリと止まった。



 宿の部屋に、ピシッと小さな音が走る。

 刀身が完全に分解し、空中に浮かんだ無数のパーツが、光をまとって再構成を始める。


 《警告:構造変化開始。ユニット“LC-12・エナ”、状態異常》



 セブンが警告する。


 これ……ヤバいやつじゃないのか?

 大丈夫なのか、エナ……?



いや、昨日も今日も、もう十分いろんなこと起きすぎだろ。

 そりゃ俺たちの旅には、多少のトラブルは付き物だって分かってたけど……


 これ、“分解”ってレベルじゃねぇぞ!?

 なんか、溶けて解体されてるみたいな、そんな感じで——




 ——そして、その光の中に、何かが生まれ始めた。


 

 分解された刀身や鍔のパーツが宙を舞い、

 その中心に、ぽうっとライムグリーンの光が灯る。

 最初はぼんやりとした塊だったけど……そこから、四方へ光が伸びていく。


 触手みたいに、ゆっくり、滑らかに。

 でもその軌道は、どこか……人の手足に似ていた。


 


 まるで、誰かの“輪郭”をなぞるように、光が形を取っていく。


 


 やがて、その中心に——立っていた。

 ……いや、まだ“誰か”とは呼べなかった。ただの光の影。

 だけど、その輪郭が、あまりにも“人”のそれ。


 

 気づけば、分解されていたパーツたちが、静かにそこへ集まり出していた。

 光の身体の上に、ひとつ、またひとつ、ゆっくりと装甲が重なっていく。


 黒を基調とした装甲が、外殻のように滑らかに重なる。

 表面には、ライムグリーンの術式回路が細く走っていて、装着されるたびにふっと脈打つように光った。


 胸に、肩に、腕に、脚に——パーツが吸い寄せられるたびに、“それ”は人の姿へと近づいていった。


 


 構造が完成するたびに、見た目の“女の子らしさ”が際立っていく。

 鎧。引き締まった体格。そして——長く流れる、銀の髪。


 ふわりと空中で浮かび上がったその糸が、

 何本ものラインに分かれて、勝手にシュルシュルと編まれていく。


 肩でそっと揺れる、三つ編み。


 


 そこでようやく、目の前の姿が“完成”した。


 


 「…………おい」


 


 気づけば声が出てた。


 目の前に立っていたのは——どう見ても“女の子の姿をした何か”だった。


 でかい。華奢って感じじゃない。明らかに大柄で、しかも鎧姿。


 だけど、動きはしなやかで、髪は柔らかそうで……

 いやいやいや、そんなことよりも問題はそこじゃない。


 


 全然別のところに意識が引っ張られていく。


 

 装甲が。鎧が。圧倒的に——足りてない。


 


 「……なんで、裸の上に鎧だけなんだよッ!!」


 


 下乳。


 露出。


 下乳!!!


 

 エナ……と言って良いだろうか。

 彼女の装備は、どう見ても戦闘用の重装鎧だった。が。


 それは、「上半身に申し訳程度にプレートを乗せただけ」と言っても過言ではない。


 冷たそうなプレートの下には、直に素肌…と言うか胸……と言うかデカい。そして、これ以上ないくらい綺麗に下乳がはみ出している。

 腰のあたりは完全に布がなく、おへそが思い切り晒されていた。


 下半身も鎧というには心もとないスリット装甲で、太ももからヒップラインまで、完全に剥き出し。


 


 「……いや、あのなエナ?」


 「はいっ!どうしましたか、リクさん!」


 「……うおっ!? 喋った!?」


  初めて発せられた“声”は、あまりにも自然で、元気すぎて。


 思わず二度見した。



しかし、どう考えてもその格好で街に出たら捕まるやつだ。


 


 「……えーと、セブン、確認。これは本当に……その、標準装備?」


 《構造分析:……ユニット・エナの人型運用形態における初期装備と推察。

 構造上、防御効率と稼働範囲を最優先しているため、布地の要素は省略されている》


 「布地省略すんなや!!文明の尊厳だぞそれは!!」




  「その格好、やばいだろ!? お前、自分の姿見えてるか!?」


 「はい! これでもう、一緒に街を歩いても大丈夫です! さあ行きましょうっ!」


 「え、ちょ、ちょ待て、手引っ張るなって!おいおいおいおい!!」


 


 ぐいぐいと手を引かれ、気づけば扉を開けられていた。


 


 ……いや?


 でもまぁ、RPG的な世界観ってこういう格好、意外と普通だし。ワンチャン大丈夫なのか?


 


 その考えは——三歩で粉砕された。


 街の通りに出た瞬間——わかりやすく、空気が変わった。


 


 男たちの視線が、集中砲火のようにエナに刺さる。


 ガン見。


 ダブルガン見。


 三度見からの、タラリと鼻血。


 挙げ句の果てに、道の反対側を歩いていたオッサンが柱に思いっきり頭をぶつけて「グホァッ!!」と倒れた。


 


 「……やっぱダメだこれぇええ!!」


 


 アリスも少し遅れて顔を出し、街を一望してから呟く。


 「……これは、統計的に“痴女”と判定される服装です」


 「判定されるんじゃねぇ!!エナ戻るぞ!!」


 


 「えっ!? でも……お出かけ……あたしも……っ」


 エナがしょんぼりする。


 だが、こちらも命……いや人としての尊厳がかかってるのだ。


 


 「このままだと、通報されて拘束されるかもしれん!」


 《補足:ユニット・エナの防御性能では、市街戦における住民保護の信用が著しく低下する恐れがある》


 「お前も遠回しに“アウト”って言ってるじゃねぇか!」


 


 というわけで——


 


 宿に戻った我々一行は、真剣に議論した結果、「まずは服を買おう」という当たり前の結論に至ったのだった。


 「で……エナ、オマエ人間の姿になれたのか?」


 


 「はい!! 頑張りました!!」


 いや、聞きたいのは努力値じゃない。


 ……めちゃくちゃ誇らしげに言うけど、お前のその努力は、たぶんベクトルがちょっとだけズレてるぞ……。


 


 本当は色々と聞きたいこともある。


 なんで喋れるのかとか、なんで人型になれたのかとか。


 そもそもお前の“本体”って何なんだ、とか。


 


 けど——


 


 「……まずは服だ。話はそれからだ」


 


 目の前で、こんなもんチラチラされながら落ち着いて話ができるほど、俺は悟ってない。


 


 あの下乳、あのへそ、あの太もも——視界に入るたびに脳がバグる。


 頼むから、布を寄越してくれ。


 


 「じゃ、俺とアリスとセブンで見繕ってくるから、お前は……その、部屋で待っててくれ」


 


 「……うう……はい、わかりました……」


 


 エナは部屋の隅で膝を抱えて小さくなっていた。

 その背中が、めちゃくちゃ切なそうだった。


 


 「……あたし、リクさんのお嫁さんなのに……」


 「聞こえてるからな!? 後でゆっくり話すからな!?」


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