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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部6話『空に届く力』
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第8幕『落着』


 風を裂く音が耳を刺す。

 俺は今、空を飛んでいる。

 剣に乗って。



 「……なんで、こんなことになってんだ俺」


 

 半泣きでつぶやきながら、眼球のついた剣——エナの背を必死に踏ん張っていた。


 まるで、スノボ。

 空中を、波打つように滑っている。


 ……いや、滑るってレベルじゃねぇ。浮きつつ斜めにぶっ飛んでる。


 

 「とりあえず落とすなよ……!落ちたら終わりだかんな!」



 そんな俺の声に、返事はない。


 だが、エナは確かに応えてくれていた。

 リズムを合わせれば、進行方向がピタッと一致する。

 バランスを崩せば、軌道を直してくれる。


 少しずつ、呼吸が合ってくるのが分かる。



 「セブン、目、貸してくれ!」


 《Trajectory scan:敵性体、右上空より接近》


 

 「来るッ!」



 カイザ=ヴェルレクが、右上空から滑空してきた。

 彼の翼が赤い光をまとうと、空間ごと圧縮されたような衝撃波が走る。


 

 でも——当たらない。


 「今だ、エナ!急上昇!」



 カイザの斬撃が空を裂く直前に、俺たちはすれ違う。


 そのまま、俺はセブンを振るって反撃に出るが——



 「ちっ、速ぇなあいつ!」



 手応えはない。

 間一髪、翼を畳んで後方に退いたカイザは、くるりと宙返りして距離を取っている。


 「なるほど、小さい的には少々手こずる……」



 彼が、忌々しそうにこちらを睨んでいる。

 でも、それは“見切られてる”証拠でもある。


 

 このままじゃ——決め手がねぇ。



 と、思ったその時だった。


 

 「いいだろう……認めてやるよ。空の上での貴様は、少しだけマシだ」



 カイザは、ふっと笑い。

 そのまま、地面へと滑空していった。



 何をする気だ……?


 

 次の瞬間、地面に立った彼の身体が、紅い光をまとって変形していく。


 骨が伸び、皮膚が裂け、翼が四肢になり……

 血のような蒸気を噴きながら、背骨が軋む音が空気を裂いた


 


 そこに現れたのは——


 「……おいおい……ドラゴン……!?」



 四つ足の、全長50メートルはある真紅の龍。


 炎を喉奥で唸らせ、爪が地面を引き裂いている。



 《脅威レベル上昇。退却を推奨》


 「いや、いまさら戻れねぇって!

 ……でもまあ…これって……」



 ドラゴンとなったカイザが、頭を擡げ、勝ち誇ったように咆哮した。



 「これが本来の姿だ、虫ケラども。

 貴様らの地べたでは、この空の王には届かぬ。

 だが私は——地上すらも、統べる者!」




 ……あー、はいはい。


 俺はふぅ、とひと息つき、肩の力を抜いた。


 「……はー、やっと終わった……」


 

 カイザの目が、ピクリと動いた。


 「……ほう、潔く諦めたか。

 無理もない、この巨躯と力を前に、貴様の覚悟など塵に等しい。

 諦めて眠れ、小さき者よ——この爆炎は、さきほどの比ではないぞ?」


 

 俺は、ゆるりとエナの背から、巨大な竜の頭部に向かって、セブンを、まるで紙切れのようにポイッと放り投げる。


 にっこりと、笑った。


 「セブン、いい感じに重くなって。切れ味は、最低で良いや」



 セブンは、まるで羽根のように軽やかに。


 カイザの頭めがけて、ゆっくり落ちていく。


 

 「……それがどうした。我が鱗は地上最硬、その硬度は魔王様の鎧すら凌ぐ。いくらその剣が鋭くとも——」


 

 《Mass channel: OVERDRIVE / LIMIT SAFE》


 セブンはそのまま、まっすぐ静かに——落ちていく。


 

 アイツはその意味に、まだ気づかない。

 首を傾げ、鼻で笑っていた。

 


 ——トン。


 セブンが横向きに、カイザの頭頂に、そっと触れた。



 次の瞬間——


 メキメキメキメキ!



 「んがっ!ぬおおお!」


 カイザが、何の抵抗もなく首を垂れる。

 


 ズガアアアアアアアン!!!!



 地響き。


 地鳴り。


 断層のように裂ける大地。


 爆風。


 

 空中にいた俺は、エナが反射的に風の流れを読み取り、ひらりと急旋回していた。


 

 地上には、大きなクレーター。


 その中心には、埋もれるように横たわる巨大な赤い竜の死骸。


 頭部は、砕け散り、もはや跡形もない。


 中心に、ぽつんと突き立った——一本の剣。


 《Impact confirmed. Estimated force:1,325.62tons TNT》



 セブンのシステム音声が、静かに報告してくる。



 「セブン、教えといてやるよ……」


 「“ちょうどいい”ってのは、住宅街に落としてギリ苦情が来ないレベルだ!!

 お前のはもはや、宇宙航空研究開発機構案件だッ!!」


 


 風が吹いた。


 誰も動かない。


 誰も、言葉を発せない。



 ——俺はまだ、この世界のルールを全部知らない。


 でも。


 質量ってのは、時に、理屈より重い。



 「すげーよセブン……うん、すごい。

 でも次からは、もうちょい考えろよ?」



 俺は、そうつぶやいて。

 ゆっくりと、エナの背から降り立った。


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