表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部6話『空に届く力』
31/80

第6幕『剣は刃となり、戦場は燃える』


 息が上がる。

 腕が震える。

 視界の端が、じわじわと白くなっていく。


 


 「……はあ、っく……!」



 セブンを振るたび、反動が全身に残る。

 軽くしても、振り抜くには筋力が要る。

 重くすれば、一撃で倒せるけど、こっちの骨まで砕けそうだ。



 ——ぶっちゃけ、もうこれ、剣っていうか、ただの“棍棒”だ。


 


 「オレ、これ使い方ぜってー間違ってるだろ……!」


 背後から回り込んできたモンスターを蹴り飛ばしながら、

 セブンを片手で地面に突き立てる。



 もう、握力がギリだ。


 

 「……少し、貸してごらん」


 白衣の男が、すっと手を差し伸べてきた。


 


 「は?」


 「セブンだよ。10分だけでいい。

 改良してあげよう、父性で」


 「おい、ちょっと、待て、お前ほんとに戦場わかってる!?」


 


 だが、セブンが言った。


 《了承。ユニットセーフモードで引き渡し。……一時的メンテナンス許可》


 「勝手に承諾すんなぁああああ!!」


 


 そして、オレはセブンを渡した。

 いや、取り上げられた。くっそ、戦場のど真ん中で!


 


 それからの10分。


 オレは、ひたすら回避に徹した。


 


 アリスのワイヤー支援がなければ、たぶん死んでた。

 いや、たぶんじゃなくて完全に死んでた。


 


 「……グォオオオオオ!!」


 「うおぉおおおおおっ!?ちょっと待て!?来んな来んな来んなあああ!!」


 


 声が裏返るくらい、ギリギリで躱す。

 踏み台にしたモンスターの顔が変形してて、なんか申し訳ない。


 


 「アリス!右、回り込んで!支援だけでいい!」


 「了解。補助支点を三箇所、射出します」


 


 飛び跳ねるように動くアリスが、ちらっと白衣の男に視線をやってから、オレを見る。


 

 「リク!セブンを弄ってるあの人には、信頼性はあるのですか!?」



 アリスの声は、珍しく苛立っていた。


 戦場で機体を預ける行為——ゴーレムとして、それは明確に“危険”だと判断しているのだろう。


 

 白衣の男は、ちらりとアリスを見て、静かに口元を緩めた。


 「ふふふ。大丈夫だよ、アリス。……いや、ミナセ・アリス」


 「ちょっと待てお前!!」

 「その名称は非公式です! 登録されていません!!」



 同時に突っ込むオレとアリス。


 「それフラグだからやめろ!!勝手に俺の名字つけんな!!」



 「ふふ、照れなくても良い。君たちはもう家族なのだから」


 「もっかいブン殴っていい!?」


 白衣の男は、まるで意に介さず、セブンに指をかざした。



 「“エッジアングル制御”、解放。

 相手の皮膚硬度や状況に応じて、セブンの刃の角度を変化させる」


 「安心したまえ。モンスターには刃、人間には従来通りの鈍器だ。

 まあ要は、切れ味を変えるだけだが、質量制御と組み合わせれば、非常に強力だ。

 制御はセブンに任せた。……大丈夫だろう。たぶん」


 「たぶんをやめろ!!」



 《演算完了。動的エッジモード。接触面、減衰率最低値》


 刀身の表面が、わずかに波打った。

 まるで液体金属のように、角度と厚みが変わっていく。



 オレは一振り試した。


  ヒュン!!


 「……軽っ!?」


 

 刃が通る。


 セブンの軽さだけじゃ無い。

 明らかに空気抵抗が違う。


 今までの“叩き割る感覚”じゃない。


 切る。


 最小限の力で、最小限の動きで。


 

 「こりゃ……やばいな。楽すぎてこわいぐらいだ」


 セブンが、いつもよりちょっとだけ誇らしげな気配を出してる……気がする。


 

 「ミナセくん、戦線中央を頼む」


 白衣の男の声が、背中に飛んできた。


 「私は右へ回る。被害の抑制も同時に行う」


 

 「っしゃ……行くぞ、アリス!」


 「了解。全力支援に移行します」


 

 それからの数分は、まるで訓練されたコンビネーションのようだった。


 

 モンスターの大群を前にしても、怯まない。


 アリスが足場と罠を張り、

 オレが跳び、斬り、斬り、斬りまくる。


 

 セブンの“刃”は確かに存在していた。


 目で見えないほど鋭くて、

 でもオレの手にだけは、なじんでいた。


 

 戦況が、押し返された。


 王国兵の歓声が上がる。

 敵が、散っていく。後退していく。


 「……勝った、のか?」


 オレが、そう呟いた瞬間だった。


 

  ゴオオオオォォォォォ……!!


 

 ——空気が焼けた。


 空から降って来た“何か”が、

 モンスターも、兵士も、建物も——全部まとめて包んでいった。


 

 「うわっ——!?」


 ——爆炎だった。


 

 黒い煙と、赤い火と、

 何かの術式が混ざったような、ぐちゃぐちゃな気配。


 前線が、一気に崩れた。


 

 叫び声が、響く。


 炎に巻かれた兵士が、ひとり、またひとりと倒れていく。


 何人かは、もう動かない。


 

 「アリス!!」


 「展開……間に合いません」


 「くそっ!!」


 次の瞬間。


  バンッ!!


 目の前に、黒い壁が立ち上がった。



 「“フォートレス・タグ”!!」


 白衣の男の叫びと共に、呪符が弾け飛んだ。

 オレとアリスの前に、巨大な防御障壁が出現する。


 爆炎がぶつかる。

 地面が抉れ、空気が歪む。


 それでも——


 

 生きていた。


 

 助かった。



 だけど、助からなかった奴もいた。



 ——戦場は、甘くない。


 

 視界の先に、伏せて動かない兵士。

 ちぎれた盾。焼け焦げた槍。


 音が消えたような気がした。

 胸が、ズンと重くなる。



 「……くそっ……!」


 オレは、拳を握った。


 次は、絶対、見逃さない。

 絶対、守る。


 

 そう誓いながら、また前を向いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ