第5幕『それぞれの戦い方』
オレたちは、戦っていた。
爆発音、金属のぶつかる音、モンスターの咆哮。
そのすべてをかき分けて、前に出る。
「上からくる!セブン、軽くして!」
《2.4秒後に質量カット》
「今!」
アリスのワイヤーを踏み台に、オレは空中に浮かんだ。
真下にいた狼型モンスターをセブンで一閃。
ガキィン!
硬い皮膚をぶち破って、地面に叩きつける。
そのときだった。
視界の隅、オレの背後。
——黒いモンスターが、壁を這って跳びかかっていた。
「ミナセくん、後方だ」
落ち着いた声とともに、
白衣の男が、黒い紙片を指で弾いた。
「ブラスト」
空中で、紙片が爆ぜる。
爆風がモンスターの軌道を逸らし、直撃を防いだ。
そのまま、白衣の男は身軽に駆けていく。
——予想外だった。
白衣のくせに、速い。軽い。
すっと地面を滑るように動いて、次の呪符を宙に描く。
「ウォール」
モンスターの突進に合わせ、黒い障壁が展開。
ぶつかったモンスターは、鼻を折ってひっくり返った。
「防衛成功。……やはり、父とは守る者なのだ」
どや顔で言ったが、言葉のわりに行動は地味にカッコいい。
その次。
白衣の男は、手のひらを前に出して構える。
「創造還元術式・起動。
ジェネシス・リサイクル・ゼロ」
「なにその中二病魔法っぽい名前!?」
その瞬間。
バシュンッ!
空気が歪んだ。
手のひらから放たれた光の帯が、遠くの飛行型モンスターを一瞬で焼き尽くす。
黒い煙すら残さず、文字通り“チリ”になった。
「……お前、今の何」
「父性だよ」
「こわッ!?」
そのあとも、白衣の男はまるで“教師”みたいに動いていた。
周囲の王国兵たちが苦戦するポイントに呪符を投げ、
爆破で敵の陣形を崩し、モンスターの足を封じる。
盾を失った兵士の前に防御壁を展開し、
傷ついた兵士を回収する隙を作る。
オレが戦っている横でも、何度か敵の不意打ちを排除してくれていた。
「さっきから、地味に助けてくれてんな……」
「親心というやつさ」
「なんでもかんでも、パパに結びつけるな!!」
それでも、認めざるを得ない。
この戦場で、オレたちは四人で生き延びてる。
ちゃんと“戦えてる”。
それぞれのやり方で。
「よし、次ッ!アリス、支点構築!」
「了解。補助支点、左上・右後方、同時展開」
「セブン、質量段階2、重撃で叩き落とす!」
《演算完了。反動を殺す着地支援に注意》
足場に飛び乗り、風を切って、
目の前のモンスターに、もう一度セブンを振り下ろす。
戦場の混乱の中で。
オレは、自分の選んだ場所で、自分の手で、誰かを守っていた。
それが、ただの気まぐれでも。
お人好しの一歩手前でも。
オレは今、ここでちゃんと“生きてる”。




