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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部6話『空に届く力』
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第3幕『説明は、OPスキップしても1クール分』


 オレは今、宿屋の主人にひたすら頭を下げている。


 


 「すみませんでしたッ!!」


 


 宿の前の通りでは、まだ爆発の煙がくすぶってる。

 窓は粉々、壁は煤けて、通行人はこっちを見てドン引きしてる。


 


 「いやホント、火薬の暴発は想定外だったんです。

 ……な?」


 「パパ改めお義父さんと呼んでくれて構わんよ」


 「呼ばんわ!!」


 


 もう怒る気力もない。


 間もなくして、街の憲兵がやってきた。

 当然のごとく現場は囲まれ、事情聴取を求められる。


 オレはポケットから、ルルの紹介状を差し出し、

 「後日、必ず弁償します」と頭を下げた。


 


 あの星の巫女さまの名前が効いたのか、

 渋い顔をしつつも、なんとか見逃してもらえた。


 ……なんだこの“巫女頼みの異世界生活”は。


 


 その場を何とか収めたオレたちは、部屋に戻った。


 壁が焼け焦げてる気がするが、たぶん気のせいだ。


 


 「……で、とりあえず、いろいろ説明して」


 オレは白衣の男に向き直る。


 


 「まずは、アリスを“娘”ってどういう意味?詳しく」


 


 アリスは無表情で黙ってる。


 セブンも鞘の中で無言だが、たぶん“情報処理優先モード”に入ってる。


 いや……たぶん単に呆れてるだけだ。


 


 「うむ、では一から詳しく説明しよう」


 白衣の男は椅子に腰かけ、やたら荘厳な声を出す。


 


 「私はかつて、罪を犯した。

 魔術と科学、欲望の果てに生まれた我が娘たち。

 彼女たちを、私は“造り”、そして、その魂すら——」


 「待て!それどれくらいの長さになる!?」


 

 「深夜アニメ1クール分だ」


 「長えよ!!」


 


 「問題ない。最近のアマプラにはOP・EDのスキップ機能がある。

 ただしCパートを見逃す危険があるのが難点だが」


 「端的に!!」


 


 「まったく、最近の若者は。

 これだから“ファスト映画”などという迷惑行為が蔓延するのだ……」


 「なああんで説教モードに入るんだよ!!」



 ——バンッ!!


 またしても、宿の主人の怒号が響いた。


 「うるさい!!静かにせんかい!!」


 

 「すみません……!!」


 


 オレは、また頭を下げた。

 それでも気になることは山ほどある。


 

 「……つまり、アリスはその、“造られた娘”ってことなのか?」


 

 「正確には、兵装制御補助端末。

 我が手によって設計・構築された“愛の結晶”だ」



 アリスがふいに口を開いた。


 「表現に不備があります。

 わたしは、量産可能なゴーレムの制御試作個体です。愛などは関係ありません」


 「いや、そこは否定しないで良いとこなんだぞ……?」


 


 オレは頭を抱える。


 この人形みたいな女の子と、変態全開の白衣の男が“父娘”で、

 その父が“父性”を爆発させて今から修行に連れてくって……いや、どうしてこうなった?


 


 その時だった。


 

 ピピッ


 何かの起動音が、机の上から鳴った。



 「さて、話はここまでだ」




 白衣の男が、何の迷いもなくスイッチを押す。



 「次の段階へ移行する」


 「いやちょっと待て!?まだ話終わって——」


 


 ブォォォォ……



 空間がねじれた。


 視界が反転して、足元が引っ張られる。


 


 重力が跳ねる。

 胃が、ふわりと浮く感覚。


 


 「ちょっ、おまっ……!」


 


 そのまま、世界が裏返った。


 


 そして——


 


 着地した先は、


 


 ゴォォォォォン……


 


 空が赤く燃えていた。

 耳をつんざく砲声と、地響き。


 目の前を、鉄鎧の兵士とモンスターがすれ違いざまに切り結ぶ。


 


 「……ここ、どこだよ」


 

 「ここが訓練地だ。

 王国軍と魔王軍が激突する、前線の真っただ中である」


 「訓練の意味分かってるかお前ぇぇぇ!!?」



 《補足:この状況は“訓練”というよりも“戦場での即時実戦投入”と分類される》


 「うん、知ってたセブン!!」


 


 「さあ行こう、我が義息子よ」


 

 男が、白衣を翻す。



 「この戦火を越えてこそ、

 真の“親子共闘”は実現するのだ!!」


 「そんなの聞いてねぇぇぇぇぇ!!!」


 


 ——こうして、オレたちは戦場に放り込まれた。



 ツッコミ役が足りない?

 知らんよ。とっくに渋滞してるわ。



 


 ——そのときだった。


 


 「そこの者たちッ!おまえたちは何者だ!?」


 


 混乱の中をかき分けて、鉄鎧をまとった騎士が駆け寄ってきた。

 肩当てに王国の紋章。どう見ても指揮官クラスだ。


 「まさか、援軍か!?……だが、見慣れぬ装備……所属を名乗れ!」


 


 こちらに剣を向けるでもなく、真剣な顔で言ってきた。


 オレは何か言おうとしたが、すかさず白衣の男が前に出てきた。



 「む……ここは義息子たる君の出番だろう。名乗りたまえ」


 「はぁ!?今!?戦場のど真ん中で!?」


 


 「いつもの、かっこいいやつだ。

 この状況を“一気に支配する”には、名乗りという演出が必要だ」


 「お前、演出家かなんかかよ……」


 


 それでも、見られてる。


 兵士たちも、アリスも、セブンも。

 そして、このわけのわからない世界も——たぶん、こっちを見てる。


 


 だったら、腹をくくるしかない。


 


 「……オレの名前は、ミナセ・リク!」


 


 「この世界のことも、戦争のことも、まだ何もわかってねぇ!

 けど!見て見ぬふりは、ごめんだ!」


 


 「命懸けで誰かを守るってのが、こっちのルールなら、

 オレも、そのルールで戦うだけだ!!」


 ——よし、言った。やったぞオレ。


 

 その横で、アリスが静かに一礼した。


 「わたしは、LC-01-A-03・アリス・リドル。

 ミナセ・リクの指示に従い、戦闘支援を実行します」



 いろんな意味で、もう引き返せない。



 「グラビティヒーロー、見参ッ!いくぜ相棒!」


 セブンが応える


 《Higgs field stabilized. Ether pathway aligned.

 Reboot complete──出力調整フェーズ》


 髪がふわりと持ち上がる。


 セブンの刀身に、起動ログが走る。

 重力波が空間を押し返し、足元の瓦礫が宙に舞った。


 


 ——王国兵たちは一瞬言葉を失ったが。


 


 「……あいつ、やべぇぞ」


 「魔導器か!?いや、例の古代兵器だろ!?」


 


 ざわめきが走る。


 目立った。完全に目立った。


 


 セブンは……頼もしい。……が、クソ目立つ!



 《……戦略の提案を求む》


 セブンの声が冷静に響く。


 「あるとも。まずは——」

 


 オレは、ぐっと拳を握った。



 「戦闘のドサクサに紛れて、隣で白衣をはためかせてるコイツを一発ぶん殴る!!」


 「なぜだね!?!?」


 


 白衣の男が振り返った瞬間、もう遅い。

 オレは構えを取りながら叫んだ。



 「この混乱!この理不尽!この精神的ダメージ!全部まとめて、責任取れええええ!!」



 すると、すぐ右でアリスが静かに右腕を持ち上げる。


 「戦術案、確認しました。

 最優先戦略対象を、“白衣の男”に設定。

 支援プラン、起動します。全力で」


 「いやいや!?なぜキミまでそんなに乗り気なのかね!?」


 「わたしは戦闘プロトコルに基づき、指揮官の意思に従います。

 副次的動機としては、“なんとなくムカついていた”という感情パターンも観測されています」


 「感情あるんじゃねえか!!」


 

 「支援開始。第一支点、射出」


  ブシュン!



 ワイヤーが飛び、オレの足元に“加速用足場”が構築される。


 「よっしゃあああああああ!!!」


 

 オレはその場を蹴り、セブンの軽量モードで助走。

 空中で質量を切り替え、ジャストタイミングで——



  ——ドッッッ!!



 白衣の男の横顔に、セブンを叩き込んだ。


 「ぐふッ……!?」


 


 ふっとんだ白衣が、くるくる回って空中に舞う。


 


 「なんと尊い光景であろうか……!!」


 地面に落ちる前に、なぜか感謝されていた。


 


 「……よし、スッキリした。じゃあ改めて行こうか、相棒」


 《了解。鬱憤解消フェーズ完了。戦闘準備フェーズに移行》


 背後でまだ吹っ飛んでる白衣の男を尻目に、

 オレたちは前を向く。


 


 戦場の風は、熱くて、うるさくて、ちょっとだけ自由な匂いがした。


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