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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部5話『機械仕掛けの優しさと、巫女の爆発』
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第8幕『お泊まりフラグを秒で折られた巫女』


 私は、通信装置の前で硬直していた。

 リクの言葉が、胸の奥に刺さったまま動けない。



 ——止められなかった。


 

 あんなに理屈を並べて、提案を出して、選択肢を示したのに。

 結局、私は彼の“進む”という意思を、覆すことができなかった。


 あれはきっと、あの子なりに悩んで出した答えだった。


 でも……でも、


 


 じわり、と後頭部が熱い。こめかみがピクつく。


 


 私は星詠みの巫女よ?

 この国でもっとも未来を視る者として、

 正しい判断を、正しい選択肢を提示したはずなのに——


 


 ——はあ?

 なにあの顔。なんで、あんな涼しい顔で断るのよ。


 


 私は完璧に説明したわよね?

 道理も筋も立ってたでしょ?

 帰る方法は調査中。ギルドへの報告も済んでる。

 星詠みの巫女・ルセリア様のご厚意つき!


 


 しかも、泊まる場所は、この・わ・た・し・の部屋!!


 


 ……何その提案を、あんな気まずそうに目をそらして「いや、このまま進む」って!?


 ていうか、なんで私があんなに勇気出して“泊まっていい”とか言ったのに、秒で却下なの!?

 なんならちょっと赤面しながら、“お風呂イベント”とか仄めかしたのに!


 


 ……そんなに、さっきのアリスちゃん?

 あの鉄仮面女と一緒の方が、居心地いいってわけ?


 


 ちくしょう、なによそれ。


 


 気づけば拳を握りしめていて、息が上がっていた。


 


 ——落ち着け、ルル。

 あなたは星の巫女。冷静に、理性的に……。

 


 無理。



 「………………無理ッ!!」


 

 ばっ!と立ち上がり、隣にいた執務官の襟首を掴んだ。


 

 「私もリクと行く!!

 あんな女とずっと一緒にいたらリクが危険——じゃなくて、私にもリクに対する責任があるもの!」


 

 すぐ横で、老魔導師のような風貌の養父が、真っ青な顔で立ち上がり、後ろから私の肩をガッチリ掴む 


 「バカモン!! お前がここを離れたら、本当に世界が滅ぶわ!!」


 「止めないで、じーちゃん!!」


 

 私が叫ぶと同時に、左右から職員たちの腕が伸びた。


 

 「ひっ……ひいぃっ!? ルル様、落ち着いてください!!」


 「こっ、ここで抜け出されたら責任問題なんです!!」


 

 両腕をがっちり押さえられた……が、それでも私は前に進む!


 

 「離してじーちゃん!! 離せこのクソジジイ!!」


 「なんだその言い草!?

 父親代わりに育ててやった恩は!?

 ていうか、マジで世界滅ぶから! 本当に!!」



 「世界とかどうでもいいッ!!!」


 「おまえ星の巫女だよな!?

 職務放棄どころか、世界放棄するな!!」


 

 「リクの方が大事なのッ!!」


 「な!? 聞き捨てならんぞそれ!色んな意味で!!

 ていうかルル、力強いな!? 3人がかりでも止まらんぞコレ!!」


 「うるさいうるさいうるさいうるさい!

 私はあんな無表情スリット鉄仮面女に負けたくないのーーッ!!!」


 


 3人の男を引き摺りながら叫んだ私の声が、神殿にこだましたのだった……。




——the episode’s end.

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