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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部5話『機械仕掛けの優しさと、巫女の爆発』
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第7幕『帰る場所と進む道』


 俺は、通信端末の前で額を押さえていた。



 なんていうか——頭が痛い。物理的にも精神的にも。



 アリスとルルのバチバチ、セブンの機械翻訳会話、その間で戸惑う俺。

 さっきまで広場で子供に手を振ってたのに、今は魔導通信で世界情勢を聞かされてる。



 展開早すぎだろ……。



 そんな俺の前で、ルルが淡々と口を開いた。



 「あと、王国軍は撤退を決めたわ」


 ルルの声に、俺は思わず聞き返す。


 「はぁ!? オレが出発してから、まだ十日くらいしか経ってないだろ?」


 「その二十日前から進軍してたのよ。だから、だいたい一か月での敗北ってことになるわね」



 ……一か月。


 思ってたより、ずっと早い。



 「展開、急だな。のんびりしてる暇なんてなさそうだ」


 「防衛線はまだ踏ん張ってるから、今日明日どうこうって話じゃないけどね。

 でも——アンタ、いったんこっちに戻ってきなさい」


 「え?」



 ルルはモニターの向こうで、少しだけ言いづらそうな顔をした。


 「……まだ何もわかってないけど、ウチの研究班に“元の世界に帰る方法”を調べさせてる。

 アンタが今どこを目指してるのか知らないけど、今はそれ以上に、情報の整理と準備が必要な時期よ」


 「泊まる場所はウチでいいから——こっちで、しばらく落ち着いてなさい」



 彼女の口調はどこまでも冷静で、正論だった。

 ……けれど、そのあとに続いた言葉は、どうにも理屈っぽくなかった。



 「あっ! でも勘違いしちゃだめよ!? 一緒に住むって言っても、別に“同棲”とかじゃないから!」


 「居候だから! お風呂で裸でバッタリとか、そういうラブコメ的なヤツは期待しちゃだめだから!」



 俺はしばらく黙ってから、ゆっくりと言った。


 「……いや、このまま進むよ。もう決めたから」



 ルルが目を見開く。


 「何よ、もう決めたって……!」




 ——ふと、あの時のことが脳裏をよぎる。


 召喚されてすぐ、初めて踏み込んだ戦場。

 魔王軍に襲われて、腕の中で泣き叫ぶ赤ん坊を、必死に庇おうとした母親。



 命のやりとりが、あまりに唐突で、現実離れしていて。

 それでも確かに“死”がそこにあった。


 そして今、視界に映るのは、平和な街で笑いながら遊ぶ子供たち——



 「この世界に来てから、まだ全然分かんないことばっかだけどさ。

 でも……セブンと一緒に旅してて、なんとなく分かった気がするんだ。

 ……オレ、“戻るために何かを探してる”ってより、まず“進まなきゃ見えない”気がしてさ」



 ルルはしばらく何も言わなかった。




 ——でも、そのあと。


 彼女は、少しだけ目を伏せて、静かに言った。



 「……わかったわ。でも——“帰って来ていい”ってこと、忘れないで」


 通信が切れる。


 俺はしばらく、その揺らいだ空間を見つめていた。



 のんびり世界に慣れるとか、強くなるとか——そんな悠長な段階じゃ、もうないのかもしれない。



 でも、それでも——


 「進むって決めたんだ。ちゃんと、最後まで見届けよう」



 ……それに。


 一人で放り出された俺に、「帰っていい場所」があるってのは——

 それだけで、けっこう心強いもんだ。

 どこまで行っても、背中を押してくれる感覚がある。



 ……歩き出す力になる、ってやつだ。




 「……しかし、ルルとのお風呂イベントか……。ちょっと、もったいなかったかな」


 思わず口をついて出たその一言。



 《評価:軽率。抑制力、15%減少と判断》


 「うるさいわ!」



 即座にセブンの冷静すぎるツッコミが飛んできた。



 そして——


 「……“お風呂イベント”とは、生活機能の一環。過剰な感情的価値を付与する行為ですか?」



 アリスがふいに口を開いた。


 淡々と、無表情のままで。



 「え? いや、別に変な意味じゃ……ないとは言いきれないが……」


 《当ユニットの弁明補助モードの開始を推奨》


 「やめてくれセブン、フォローする気ないだろ絶対!」


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