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境界のソードファンタズマ  作者: 矢崎 那央
第1部5話『機械仕掛けの優しさと、巫女の爆発』
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第6幕『三者会話は一方通行』


 ——あ、これダメなやつだ。


 通信が繋がった途端、画面の向こうでは“アレ”と“アレ”がバチバチだった。


 「……ずいぶんと静かな方なのね? 最初、映像止まってるのかと思ったわ」


 「そちらこそ、最初から表情が営業スマイルで固定されていますが、調整ミスですか?」


 「……言うじゃない」


 「事実です」


 火花が、見える。いや、もう見えてる。この魔法通信、エフェクト機能ついてんのか?


 


 「……あー、その、ちょっといい?」


 俺はそっと口を挟んだ。


 「俺、ギルドに寄っただけなんだけど、いきなり案内されてここでこれで……で、結局、なんの用?」


 答えはなかった。


 二人は、完璧な無視をキメたまま、黙ってお互いを睨んでいる。


 


 ……終わらねえ。




 ——俺は、画面に映るルルに目を向けた。


 「……ルル。なんか久しぶりな感じするな」


 「……そう?」



 つれない返事。そっけないにもほどがある。


 少し間が空いて——




 《ユーザーは、ルセリアとの通信を喜ばしく感じている》


 「いや、言い方!」


 


 ルルはちらりとセブンを見やって、小さくため息をついた。



 「……あいにく忙しくてね。報告書とギルド対応だけで手一杯だったわ」

 

 「いやいや、そういうのは分かるけどさ。なんていうか……こうして顔見ると、ちょっとホッとするっていうか……」



  ルルは答えなかった。無言のまま、映像の枠外にある書類へと手を伸ばし、わざとらしいほど自然な顔を作っていた。




 《ユーザーは、対象ルセリアに対し、安心感および信頼を表明》


 「……おい、やっぱお前盛ってんだろ!?」


 


 ルルはぴくりと眉を動かし、すぐに表情を戻す。


 「……その中継、思ったより使えるわね」


 


 ——そして俺は、アリスの後ろから感じる「視線がうるさい」という無言の圧を見なかったことにした。


 

 諦めた俺は、セブンに目を向けた。



 「なあセブン、オマエ経由で話してもいいか?」


 《許可。中継体制を開始》


 


 俺がため息をついた直後、ルルがセブンに話しかけた。


 「つまりよ。いち早く戦況の変化を知らせておこうと思ってね」


 すかさず、セブンの声。



 《ルセリアは、“最新状況の開示”を提案している》


 「……いや、オレにはその中継いらないから」


 《理解。以後、不要時には“既読スルー”に切り替える》


 「違う、そうじゃない」


 


 ルルは小さく笑ってから、言葉を続けた。


 「この街の北、旧領土線で不穏な動きがあるの。……まだ住民には知らされてないけど」


 《ルセリア・ルーンヴァイスは、当該動向を“前哨的挑発”と判断。当ユニットが収集した情報でも、各地で小競り合いが確認されている》


 「やめろ、だからそれオレに中継するなって」


 


 アリスが、無表情でセブンの方に視線を向ける。



 「高性能ですね。……中継機能も」


 「おい、褒めるな! それ使うのおかしいからな!」


 

 《補足:リク・ミナトの混乱度、軽度上昇中。現状把握が困難なため、説明を要する》


 「いや、なんでオマエがそれモニタリングしてんだよ!」


 アリスが、わずかに視線を上げると、セブンに向かって小さく言った。



 「……《補足》、評価します」


 《了解。対話プロトコル継続》


 「アリス! オマエもセブンとだけ会話すんなって!」



 思わずツッコむと、背後からひときわ冷えた声が飛んできた。




 「……アリス“ちゃん”って言うの? その子」


 「え、いや、それは——」


 「で、セブン。リクとアリスちゃんは、今どのくらいの関係なわけ?」


 「だから、それは別にそういうんじゃなくて、たまたま……」


 《該当人物アリスとの同行は、環境的要因に起因する偶発的合流。リク・ミナトによる主体的選択はないとユーザーは弁明》



 「ふうん。なるほど。“偶発的合流”、ねぇ?」


 《補足:ルセリアの内心、穏やかではない模様。語尾の波形に若干の棘あり》


 「いらないからその分析もっ!! オマエら中継すんな、会話が三重苦なんだよ!!」



 セブン越しの会話は、なぜか俺だけが蚊帳の外だった。


 


 ——この通信、あと何分続くんだろう。


 なんとなく、頭が痛くなってきた。

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