新たなる光
グルムヴァイトの赤い瞳が獰猛に光り、再びセイラに襲いかかろうとしたその時、セイラの全身を包む淡い光が一層強く輝き始めた。彼女の手に握られた戦鎚も同調するかのように眩い輝きを放つ。
「セイラ様、その光…!」
マリアが驚きの声を上げた。クリスタルの髪飾りが一瞬輝き、その光がセイラを通じて戦鎚に流れ込んでいるようだった。
セイラは深呼吸をし、心を落ち着けた。
「これは…きっと聖女の力…。」
グルムヴァイトが咆哮を上げ、地を蹴って飛びかかる。セイラは恐怖を抱えながらも、しっかりと足を踏みしめた。
「私には、やらなきゃいけないことがある…!」
その瞬間、セイラの髪飾りがさらに強く光り、戦鎚から放たれた光がグルムヴァイトを包み込む。輝きは徐々に魔物を覆い、その獰猛さが次第に和らいでいく。
「なんだ、この光は…!」
騎士たちは驚き、武器を構えたままその場に立ち尽くす。
セイラは戦鎚を掲げ、静かに目を閉じた。彼女の心にはただ一つの願いがあった――「この魔物を、浄化してあげたい。」
輝きが最高潮に達したとき、グルムヴァイトが苦しそうに低い声を漏らし、やがてその体は柔らかな光となり、消えていった。その姿は、まるで悪夢から解放される魂のようだった。
静寂が森に戻り、誰もが息を飲む中、セイラはそっと戦鎚を地面に下ろした。
「これが…聖女の力…?」
マリアが駆け寄り、セイラの肩に手を置いた。
「セイラ様、あなたがその力で救ったのです。あの魔物はもう、この地を苦しめることはありません。」
騎士団長が歩み寄り、深々と頭を下げた。
「聖女様、失礼ながら…あなたの力を疑っていました。しかし今、あなたこそ真の聖女であると心から確信しました。」
騎士たちも次々に頭を下げ、その場に静かな敬意が満ちる。セイラは困ったように微笑みながらも、しっかりと頷いた。
「これからも、私は戦います。この力で、守りたいから。」
こうしてセイラは、自らの力を初めて明確に認識し、次なる試練へと歩みを進めるのだった。
森を抜け、セイラたちの一行はようやく村の入口へとたどり着いた。戦いの余韻を感じさせる静かな空気が、彼らの疲れた体に重くのしかかる。
村の住民たちは、不安げな表情で遠巻きに彼女たちを見つめていた。セイラの目がその中に小さな子供たちの姿を捉えた瞬間、胸が締め付けられるような思いがした。
「この村を守るために戦ったんだよね…」
小さくつぶやくと、マリアがそっと微笑みながら肩を叩いた。
「そうです。そして、あなたが守った命は、確かにここに生きています。」
騎士団長が村長と思しき老人に近づき、状況を説明している間、セイラは村の様子を見回した。家々は崩れていたが、住民たちの目にはどこか安堵の色が見える。
村長がセイラの前に歩み寄り、深々と頭を下げた。
「聖女様、ありがとうございました。私たちの村は、あなたの力で救われました。」
セイラは慌てて手を振りながら、村長を引き起こそうとする。
「そんな、私はただ…!皆さんが無事で本当によかったです。」
子供たちが少しずつセイラの周りに集まり始めた。その中の一人、髪がぼさぼさの少年が勇気を出して声をかける。
「お姉ちゃん、強いんだね!あのすっごく怖い魔物、やっつけちゃったんでしょ?」
セイラは少し恥ずかしそうに頷きながら、しゃがみこんで少年の目を見た。
「うん。でもね、怖くなかったわけじゃないよ。怖かったけど、みんなを守りたかったの。」
少年は目を輝かせて頷いた。
「僕も大きくなったら、お姉ちゃんみたいに強くなる!」
その言葉に、セイラの胸に温かいものが込み上げた。
騎士団長が話を終えて戻ってきた。
「聖女様、村の安全は確保されました。我々ももう少し村に滞在して、復旧のお手伝いをする予定です。」
セイラは頷き、目を伏せた。
「私も手伝います。これからも、この村の人たちと一緒に…。」
こうして、セイラは初めての試練を乗り越えた。そして彼女の心には、新たな決意が芽生え始めていた。
「私にできることは何だろう。もっと強くなって、もっと多くの人を守れる聖女になるために。」
その日の夕焼けが、村全体を優しく包み込んでいた。
これで一段落となります!次回もお楽しみに♪
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