兆し
少しずつ・・・。
2人は花見の後、福岡の街をぶらりと散策、ショッピング等をして楽しんだ。
やがて西日が傾きはじめる頃、茜と健司は薬院駅へと向かう。
「いや~楽しかったね」
今、屈託なく笑う茜に、強い葛藤や憤りが潜んでいるのを思うと、健司はやるせない気持ちになり、思わず、
(ここにいてもいいんだぜ)
と言いたくなってしまう、自分を懸命に堪えるのに精一杯だった。
駅の構内に入り、茜が帰りの券売機で切符を買っているのを見て、後ろから抱きしめたいなんて健司が妄想していると、
「見送りありがと」
茜はぺこりと頭を下げ改札をくぐろうとする。
「・・・あ、茜」
「ん」
彼の声に彼女は立ち止まる。
「世界は自分次第で変わるよ」
「何よ急に」
「自分の心ひとつで良くも悪くもなる」
「・・・経験者は語るってヤツ」
「まあな」
「・・・まだ社会人3年生に言われたくないわ」
「俺は・・・」
「分かっているわ・・・頑張ってみる」
「ああ」
「じゃ」
「それと・・・」
「それも分かっている。前向きに検討するわ」
「おう」
茜は再び歩きだし改札をくぐる。
彼女は健司の方を振り返らず、伸ばした右手を左右に振って人混みの中へと消えた。
光はさす。




