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花見

 花見をする。


 翌朝。

 茜のスマホからアラームが鳴る。

 手を伸ばしアラームを止め、二度寝しようとする茜だが、はっと気づき、もぞもぞと

ベットから這い出した。

 裸のままスマホを持ち、部屋の奥へと行き、会社へ電話をかける。

「はい・・・はい。ちょっと体調不良で、すいません」

 茜は電話を切ると、溜息をつく。

「ズル休みか?」

「わっ!びっくりした。起こしちゃった?」

「まあな」

 同じく裸のケンジが彼女の隣にいた。

「休日稼ぎ時の船頭が日曜休みなんて、滅多にないもんな」

「うっさい。アンタみたいな公務員とは違って、こちとらブラックよろしくなのよ」

「ま、無断欠勤には至らなかったのは社会人として最低限の礼儀だな」

「ま・・・ね。お母さんが言ってくれたおかげだけど・・・」

 茜はそう言うと俯いた。

 ケンジはそっと彼女を背中から抱きしめる。

「それを判断したのは茜だろ。凄くいい選択だった思うよ・・・ギリ社会人としてセーフだ」

「なんだかな・・・ありがと」

 2人はキスをした。


 昼前になって、二人は朝食と昼食を兼ねて、散歩がてら大名へ出かける。

 茜はスマホで検索した、ホットサンドの店にご執心で、ラーメンにしようというケンジを無視してその店を目指した。

 ところが・・・店はシャッターで閉じられていた。

「潰れてる」

 茜は肩を落とす。

「まあ、このあたりは、店舗競争が激しいから」

「ホットサンドの口なのに」

「知らんよ」

「食べたいよ~」

「・・・そうだ」

 ケンジは妙案を思いつく。


 コンビニでホットスナックやサンドイッチ、おにぎりを買い、二人は警固公園までやって来た。

 桜は8分咲きで、澄んだ晴れ間に、若々しい花びらがキラリとしていて、心が晴れるような清々しい気分となる。

「花見ねぇ」

 茜は桜を見て呟いた。

「名案だろ」

「アンタにしちゃ上出来ね」

 空いたベンチに腰掛け、茜はコンビニの袋をあける。

 ふと、ケンジを見ると、じっと桜を眺めていた。

 ちょっぴり悪戯心が彼女に湧く。

 ぴとっ。

 彼の頬っぺたにコーヒー缶をあてる。

「うあ、熱いっ!」

「大げさな」

「茜、おま、コンビニのホット缶は、自販機の数倍熱いんだからな。殺人レベルやぞ」

「はい、はい。桜綺麗だね」

 茜は話をはぐらかし遠い目で満開桜を見る。

「にゃろ」

「ふふふふ」

 二人は缶コーヒーを飲みながら、サンドイッチを頬張る。

「いいね」

 と、呟く茜。

「いいだろ」

 と、頷くケンジ。

「・・・・・・」

「・・・・・・茜」

「ん?」

「昨日の事、よく考えてくれないか」

「・・・わかった」

 彼女は神妙に頷き、空を見上げる。

 春の青空に差し込む陽光が心地よい。




 ふたり。

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