吐露
話し合える人がいるって大事な事ですね。
茜はリビングでぼうっとテレビを観ている。
ケンジはキッチンで、粉のインスタントコーヒーをマグカップに入れ、沸かしたポットから、湯を注いだ。
彼は2個のマグカップを両手に持って、テーブルに置く。
白い湯気がカップからこぼれる。
「ほれ」
「ありがと」
茜はぺこりと頭を下げると、ふーふーと息を吹きかけ冷ましながらコーヒーを飲んだ。
「で」
ケンジは対面に座ると、即、尋ねた。
「・・・でって?」
一瞬、はぐらかそうとする茜に、ケンジはぐいっと顔を近づける。
「で、じゃないだろう」
「・・・うん」
茜は、ゆっくりと話し始めた。
ケンジは彼女の話を聞きながら、時折、相槌を打ち真剣に聞き入った。
「という訳」
「なるほど」
茜が思いの丈を伝えた頃には、すっかりコーヒーは冷めてしまった。
2人は冷たいコーヒーを無言のまま啜る。
ケンジはカップをテーブルに置くと、
「茜がいきなり来るのは、なんかあると思っていたけど・・・」
「ごめん」
「ま、いいよ。飲み会は慌てて帰ってきちゃったけどな」
「ごめん」
「飲み会より、こっち(茜)の方が大事だろ」
「ありがと」
「で」
「・・・でって」
「茜はどうしたいんだよ」
「私?私は・・・どうしたいんだろう」
ケンジの真を突いた言葉に、茜は視線を天井に泳がせた。
「仕事辞めたいって訳じゃないんだろう?」
「・・・うーん」
「辞めたいのか」
「分からない?だけど、なんか納得できなくて」
「うん。でも、お前のじいちゃんも言っていたよな。船頭はお客を乗せた以上、すべての責任は自分にあるって」
「分かっている・・・だけどモヤモヤするよ」
「そっか・・・腹減ったな」
ケンジは立ち上がると、キッチンの方へ歩く。
「茜、カップ麺食うか」
「・・・半分ちょうだい」
「・・・分かった」
ケンジは1.5倍のバケツラーメンに湯を注ぐ。
「茜」
「うん?」
茜はケンジの方を見る。
「もし、辛いんだったら、辞めてもいいと思う」
「・・・なんで」
「なんでって・・・ちょっと前倒しになるけど、俺と結婚・・・」
「いやっ!そのプロポーズは浪漫がないっ!」
茜は即座に顔をしかめ指摘した。
「・・・ちえっ、そうだけど、まあ、考えるいい機会じゃないの」
そう言言い返したケンジに、茜は目を伏せ、しばらく考え込み、
「・・・・・・そうね」
と、呟いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
考え込む二人のテーブルに置いたカップ麺はすでに伸びていた。
それとふたりの未来。




