説教
受難の一日。
茜は社長に呼ばれ、こっぴどく叱られてしまった。
もとより、お客を乗せた以上、責任があるのは重々承知しているが、スマホの件や落水はこちらに落ち度はないのである。
女性で妙齢の社長はゆっくりと諭しはじめる。
「しっかり注意しないとね」
「はい」
「目配り気配りですよ」
「はい」
「1日に2度もこういう事があるということは、私はやっぱりどこかに油断が
あったと思うな」
「はい」
茜は社長の説教を神妙な面持ちで申し訳なさそうに聞いて、返事をしながら
頭を下げている。
すると、船頭長がやって来て、
「あの社長・・・」
「今取り込み中ですが・・・」
「お電話が・・・」
「誰?」
「それは・・・」
「クレームね・・・はい、わかりました」
社長は溜息をつくと、その場を離れた。
「茜ちゃん」
船頭長は彼女の肩をぽんと叩く。
「すまん」
彼は一言、そう言った。
「・・・それって、どういう」
「朝一茜ちゃんのお客さんの電話なんだ」
「・・・は?」
「思いあたる節ある?」
「・・・はい」
「凄い、カタコト言葉だったけど、剣幕が凄くて」
「・・・ああ、わかりました」
茜は理解した。
すると社長が肩をいからせ眉間に皴を寄せて、感情を露わにして戻って来る。
「川田さんっ!」
船頭長は両手を合わせ、そそくさとその場を立ち去る。
「お客様に暴言を吐いたそうですね。信じられない!」
「それは・・・」
「憤慨されていましたよ」
「理由があって」
「どんな理由?」
「それは川下り中に言い寄られまして」
「へ?」
「川下りどころじゃなくなって」
「カスハラ?」
「まあ」
「ん~そう」
社長は腕を組んで唸りだす。
「散々な一日でした」
茜は溜息をつく。
「・・・だとしても、3回の川下りで、これだけのアクシデントがあって、お客様を不快にさせてしまった・・・仮に川田さんが正しい行動、選択をしていたとしてもね」
「はい」
「私はあなたが気の毒とはいえません。だって、お客様を乗せた以上は、その責任は船頭にあるもの」
(全力で仕事に取り組んでいるのに・・・きちんとやるべきことをやった時は、上の人間が責任をとって欲しい・・・いつもはそう言ってるやん・・・これってそうじゃないの?)
彼女は咄嗟に思いついた言葉をあやうく吐き出しそうになって飲み込んだ。
「ねぇ、川田さん、そう思うでしょ」
「はい」
茜は俯くと、ふいに悔し涙がこぼれた。
「その涙が糧になるのよ。私たちの仕事は甘くありません」
「・・・・・・」
彼女は拳を握りしめる。
社長は自分の言葉で彼女が反省していると勘違いをし、気持ちがハイになり、慰めつつも小一時間堂々巡りの説教が続いた。
解放っ。