重なるⅢ
三度目の・・・。
(これで最後にしよう)
集中し足裏で、底の感触をもう一度、用心を重ね探ってみる。
すると、固いものにあたる。
「これだっ!」
茜は確信すると、ゆっくりと足でスマホを抑え、右手を突っ込み根性でスマホを探し出した。
それから、転がるように舟へとあがり、肩で息をしながら、操船して乗船場へと戻った。
「茜ちゃん、いける?」
操船回しの担当船頭が不安気に話しかける。
「大丈夫、大丈夫」
辿り着いて、着替えを済ませ、息つく暇もなく、舟へと向かう茜は笑った。
「じゃ、お願いします」
「はい」
お客さんを乗せ、茜は舟を押した。
予約のお客さん達は地元の消防団だった。
出発早々から酒盛りをはじめ、どんちゃん騒ぎで賑わいはじめる。
茜はどうせ聞いていないガイドを止め、操船へと集中した。
「船頭さん、可愛いね」
「彼氏いる?」
「お前、告れよ」
など、カスハラ満載の言葉にも、茜は笑顔とアドリブで返し、舟を進める。
「おねえさんっ!」
白髪の年長者が声をかける。
「はい」
「俺、トイレ行きたいんだけど」
「はい。もうちょとで日吉神社の公衆トイレがありますから、そこで止まりますね」
「お願い・・・あ~でも、もう、でそう・・・ここでやっちゃっていい?」
「それは・・・」
「先輩、汚いもの見せんでください」
「なにを言う。俺のBIGサイズを・・・」
「やめろ~やめろ~」
「船頭さん困っとろうが」
ギャハハハと笑声が広がる中、茜はゆっくりと舟を回頭し桟橋へ止め、ロープで係留する。
「流石」
「うまい」
外野から、ヤジにも似た声があがり、
「あ~もれる、もれるっ!」
年長者が慌てて、舟から桟橋からあがろうとした瞬間、バランスを崩し、
「あ」
「あ」
ゆっくりと、お堀へ落ちて行った。
茜は天を見上げ、消防団の皆は大爆笑する。
(やっぱツイてないや)
彼女はスマホを取り出し、会社へと報告を入れた。
茜の受難。