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第8食 チョコミント

 「ミルキーはママの味」という有名なキャッチフレーズがある。

 それに照らしてみれば、私にとって「チョコミントはパパの味」と言っても過言ではない。


 子どもの頃、週末になると家族で隣の大きな駅に出かけるのが恒例の過ごし方だった。

 私が幼い頃に開店したファッションビルの1階に入っていたのがサーティワンアイスクリームだ。おやつ時になると、父はたまにここに連れてきてくれた。

 カラフルなアイスクリームが収められたディスプレイに釘付けとなる子どもたち。

 どの味にしようか迷っている私たちをしり目に、父が選ぶのは毎回決まってチョコミント(サーティワン名でいうと『チョコレートミント』)だ。


 そもそも、チョコとミントは父の好物だった。

 特段甘いものが好きというわけではない父だが、何故かチョコレートだけはお気に入りで、冷蔵庫の隅でそっと眠るタッパーにはチョコレートが収められている。

 それを知っている私はたまに失敬するのだが、ひんやりと冷えたチョコレートは少しだけ苦くて大人の味がした。

 また、車を運転する時の父のお供は、板ガムのブラックブラックとメントスのペパーミント味だ。

 辛いのが苦手な子どもにしてみれば、ブラックブラックの黒いパッケージは恐怖以外のなにものでもない。だから、車中で食べるのはいつだってメントスだ。

 ほのかな甘みと共に広がる爽やかなミントは、これまた私にとっては大人の味だった。



 二大好物が合体したその味を、父が嫌いなわけがない。

 毎回父とアイスを食べに行けば一口味見ができるので、私自身がチョコミントを選ぶ必要性はなかった。

 そんなわけで私は安心して、ロッキーロードやバナナアンドストロベリー、期間限定で存在したサーティワンラブやゴールデンデリシャスアップルシャーベット(アップルだが何故か色は薄水色だった)をチョイスしていた。


 好きな味で甘く満たされた舌に、父のチョコミントが一口だけやってくる。

 ミント全開と言わんばかりのいかにもな水色が、爽やかな風を口の中に運んできてくれるのだ。そして、すこしだけ口内がきりりと引き締まったあと、甘すぎない上品なチョコレートが舌を優しく撫でていく。

 私のサーティワン体験は、こんな風にして積み重ねられていった。



 しかし、中学生に上がり友達とお出かけするようになると、毎回チョコミントを一口もらうというわけにはいかなくなる。

 すると、知らず知らずの内に育てられたチョコミント好きの遺伝子が、サーティワンを訪れる(たび)私にそっと(ささや)くのだ。


 ――久々にあの味を食べてみたくはないか? と……。


 そんなわけでいつしか私もチョコミントを(ほっ)する身体になってしまった。

 といっても、どんなチョコミントでもいいわけではない。なんとなく、市販のチョコミントアイスはミント味がキツすぎる気がする。

 私の舌にいちばんしっくりくるのは、幼い頃から食べ慣れたサーティワンのものだ。



 あとは、セブンティーンアイスの存在も忘れてはならないだろう。

 セブンティーンアイスというのは、自動販売機でしか購入することのできないスティック状のアイスのことだ。

 或る日のこと、小学生の頃通っていたスイミングスクールにこの自動販売機が設置され、子どもたちは歓喜に打ち震えた。

 寒がりとなった今ではプールで泳いだあと更に身体を冷やすのはどうかとも思うのだが、疲れた身体に甘いアイスは当時最高のご褒美だった。

 こちらのアイスは迷わずチョコミント味一択だ。多分他の味はほぼ食べたことがない。ワッフルコーンが付いている味の方が得な気もするのだが、何故だか毎回チョコミントを選んでしまう。

 私は完全にチョコミントの呪縛(じゅばく)(とら)われているといっても差し(つか)えないだろう。



 そんな私が人生で一番衝撃を受けたチョコミント、それはハーゲンダッツのチョコミント(ハーゲンダッツ名でいうと『ショコラミント』)だ。

 といっても、私がその味に出逢ったのはスーパーやコンビニではない。2013年に日本からは惜しまれつつ撤退してしまったが、ハーゲンダッツのイートイン店舗で私は彼に出逢ったのだ。


 当時学生だった私は、たまの贅沢にハーゲンダッツの店舗にひとりでこっそり立ち寄っていた。

 ハーゲンダッツといえば私の中ではグリーンティーで、その日もグリーンティーかなとディスプレイを覗き込んだ瞬間、思いがけないフレーバーの存在に私は目を丸くする。


 ――え、白いチョコミント……!?


 そう、そのチョコミントは白かった。

 サーティワンやセブンティーンアイスで見慣れた水色の彼は、そこにいなかったのである。

 ハーゲンダッツは着色料を使用しないため、ミント+ミルクという原材料そのままの色を反映した白いアイスになるのだ。


 まるで一張羅(いっちょうら)に身を包んだ幼馴染みに逢うような、そんな思いでコーンに盛られた彼をじっと見つめ、そっと一口頂く。

 すると、クリーミーさと上品な爽やかさがふわりと口の中に広がっていった。もう一口食べると、濃厚なチョコが甘さをすっと舌に残していく。

 そうそう、このスッキリさと甘さに出逢いたくて、私はチョコミントにどうしようもなく惹かれてしまうのだ。その洗練された味に、私は大満足でお店をあとにした。


 このハーゲンダッツのチョコミント、2024年7月現在『ショコラミントクランチ』という期間限定のアイスバーとしてお店に並んでいる。

 あの日出逢ったのと恐らく同じ味であろうこのアイスは、そのお値段に見合ってとてもおいしい。

 しかし、できればもう一度ハーゲンダッツの店舗であの『ショコラミント』を食してみたいのだ。

 日本では十分にブランドが広まったため店舗閉鎖を決めたというハーゲンダッツ、とはいえグアムや上海には残っているわけで、いつかまた日本にも再上陸して頂きたいものである。



(了)

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― 新着の感想 ―
 チョコミント好きです。  サーティワン行ったら、必ず選びます。
>ミルキーはママの味」 ある意味正しいらしい 日本マクドナルドの創始者 藤田田氏の言葉に マックシェイクは 敢えて呑みにくいように 粘度などで吸うスピードを調整してるらしい 何と、母乳を飲む速度と同…
[良い点]  チョコミントが「歯磨きの味」でなかったこと。 [一言]  白いチョコミント。  チョコチップと間違えて食べると、油断したところにミントの刺激(笑)  自販機のあのアイスは、見かけるとつ…
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