第4食 ドーナツ
今住んでいる家の最寄り駅にミスタードーナツがある。いつ見かけてもお客さんで賑わっていて、すごい人気だ。
22時までやっているが、その時間でも普通に並んでいるのだから、びっくりしてしまう。
思い返せば、私が子どもの頃に住んでいた街にもミスドはあった。
正確に言うと、当初はミスドの近くにダンキンドーナツという店もあり、小さな街の中でドーナツ合戦を繰り広げていた。
しかし、ダンキンドーナツは気付けば閉店に追い込まれ、私の街に限らず日本ではミスドに軍配が上がり、ダンキンドーナツは撤退を余儀なくされた。
正直私にはダンキンドーナツの味の記憶がないので、一度くらい食べてみたかったなと思う。
その後日本にクリスピー・クリーム・ドーナツが上陸し、何も知らずに新宿南口を通りかかった私は突如として出現した長蛇の列に衝撃を受けた。
平日の空いている時間帯を狙って友人と買いに行った時、並んでいる間にもらったオリジナル・グレーズドがおいしすぎて感動したことを覚えている。
熱々でやわらかい生地を砂糖が上品にコーティングしており、できたてのドーナツはこんなにおいしいものかとまたしても衝撃を受けたものだ。
今は一時期よりも見掛けなくなってしまったクリスピー・クリーム・ドーナツだが、あの時のインパクトは未だに忘れられない。
しかし、結局のところ慣れ親しんだ味と店舗数の多さに引き寄せられ、一番通ってしまうのはミスドである。
47都道府県にあまねく存在するミスドは、日本人にとっては各家庭の思い出の味になっているんじゃないかと思う。
子どもの頃はたまに父がおみやげでミスドを買ってきてくれた。
お店の詰合せセットでもあったのか、毎回メニューは一緒だったように思う。
兄・私・弟の3兄弟で順番に好きな味を選んでいくのだが、いつも兄は最初にエンゼルフレンチを選んでいた。
グラニュー糖に生クリーム、そしてチョコレートもしっかりかかったあのドーナツは、非常にバランスが良く完成された商品だと幼心に思っていた。
だからか、私の中でミスドの王道はエンゼルフレンチという思い込みがある。
私は子どもの頃チョコ、ココア生地とグラニュー糖が好きだったので、ショコラフレンチというココア生地にグラニュー糖がかかったドーナツを選んでいた。
最近店舗で見かけないなと思っていたら、いつの間にか終売してしまったらしい。人気店であるだけに、レギュラー商品として生き残り続けるのも簡単ではないようだ。
しかし或る日、確か祖父が買ってきてくれたのだと思うが、ショコラフレンチに似て非なるドーナツが箱の中に入っていた。
今日のお砂糖は随分大粒だなぁと思いながら食べてみると、大して甘くない上に何だかシャリシャリしている……! 私は想像と違う味にショックを受け、それから暫くはココア生地のドーナツを見ても敬遠する羽目になってしまった。
その因縁のドーナツであるココナツチョコレートが今ではお気に入りのフレーバーなのだから、人の好みというのはわからないものである。
ちなみに弟は……多分エンゼルクリームとかを食べていたんじゃなかろうか……正直よく覚えていない。
そんな私が毎回ミスドで買うのは、上記のココナツチョコレートかポン・デ・リング、そしてハニーディップの内の2つである。
本来ドーナツはその日の内に食べるのがベストだが、1日に2つ食べると食事に差し支えてしまう気がして、私は1つずつ2日に分けて頂くことが多い。
ポン・デ・リングは言わずと知れた大ヒット商品だ。
発売当初は全くその存在を知らなかったのだが、大人になってから食べてそのもちもち食感に魅了された。あまりの人気ぶりに、コンビニやスーパーの冷凍食品コーナーでは類似商品が堂々と発売されている。
それでも、やっぱりミスドのポン・デ・リングが断トツでおいしいのである。
イメージキャラクターであるポン・デ・ライオンと共に、これからも長く人々に愛されていくことだろう。
ちなみに、今回調べて初めて知ったことだが、ポン・デ・ライオンは生まれてからずっとポン・デ・リングしか食べたことがない偏食家らしい。
おなかが空いたら可食部であるたてがみ部分を食し、食べ終わると共にしっぽが膨らんで新しいポン・デ・リングが生まれるという永久機関になっているそうだ。
こういうキャラ設定も巧みだなぁと思う。
ハニーディップはふんわりやわらかいドーナツに蜂蜜がコーティングされているドーナツで、調べてみたところ創業当初から存在するメニューらしい。
父の詰合せセットには入ってなかったので、私はこちらも大人になるまでその存在を知らずにいた。
しかし、大学生の時のバイト先の店長さんが一時期ハニーディップにハマりすぎて、ハニーディップのおいしさの説明をひたすら聞き続けていたところ、気付けば私もハニーディップ好きになっていた。
推しへの情熱というものは、時に人の心を強く動かすものである。
そんなこんなでドーナツ回というかミスド回になってしまった。
恐らくこの連休中も、空いている時間帯を見計らって1回くらい買いに行ってしまうような気がする。
そして、お店に溢れる家族の笑顔に出逢い、あぁ連休だなぁとあたたかい気持ちになるのだろう。
こうしてミスドは、今日も新たな家族の思い出を作って行くのだ。
(了)