第19食 タピオカ
『◯◯ブーム』と呼ばれる社会現象を巻き起こす食べものがこの世には存在する。
私が生まれて初めて認知したそれはナタデココであった。
或る日の給食で登場した、バットいっぱいのフルーツポンチの中にふよふよ浮く白い立方体。
不思議な食感とほのかな味に惹かれ「これがナタデココ!」と感動したものである。
そのあと家族旅行の朝食バイキングでまたもやナタデココを発見し、たくさん取ったらそれはナタデココでなく寒天だったというほろ苦い思い出も懐かしい。
今思えば寒天だっておいしいのだが、期待した歯応えがなかったことに当時の私は大いに絶望したのである。
他にもティラミスやパンケーキ、ピスタチオ、近年ではマリトッツォなど、多くの食べものが時代を牽引し、やがてあまり姿を見せなくなったり定番商品として落ち着いていったりしながら、緩やかにブームを終えていった。
そんな中、日本国内において何度もブームを巻き起こしている食べものがある。
――そう、タピオカだ。
私が初めてタピオカを知ったのは小学校低学年の頃だ。
私が通っていた小学校は栄養士さんがユニークで、前述のナタデココの通り流行をどんどん取り入れたり、時にはチャレンジメニューを発案したりしていたのである。
その日、給食の配膳カートに載せられたボウルには牛乳がたっぷりと入っており、水面に小ぶりな球体が浮かんでいた。
一体なんだろうと思いつつ栄養士さんからの説明プリントを読んでみると「今日のデザートはタピオカミルクです」とある。
「タピオカはキャッサバという植物から採れたでんぷんでできています」
未だにこのことを覚えているのだから、子どもの頃の記憶力というものはなかなかに侮れない。
このタピオカの原料がキャッサバであるという知識を、私はタピオカブームが訪れる度にひけらかしていたものである。
ちなみにキャッサバはアフリカや東南アジアを中心に栽培されている芋類の一種で、その栄養価の高さから重宝されているそうだ。
そして配られたタピオカミルク。
普段は豚汁や味噌ラーメンが入れられるアルミの器には、涼しげな色のミルクと謎の球体たちが遠慮がちに佇んでいる。
どんな味がするんだろうとドキドキしながら一匙。
口に入れた瞬間、普段飲んでいるミルクとは違う風味が流れ込む。
私が初めてココナッツミルクに出逢った瞬間である。
続いて舌を滑るつるんとした粒の数々。
噛んでみると少しだけもちりと反発がある。
――ふむ、これがタピオカ。
当時出てきたタピオカはいくら程度の大きさだった。
スプーンですくってみると透明な玉がココナッツミルクを薄く纏っている。
うん、つるつる感は好きだ。
しかし、ナタデココ程心を震わせるものではないな。
それが私の第一印象だった。
改めて調べてみると、タピオカが日本でブームを巻き起こしたのは現時点で計3回。
第一次タピオカブームは1990年代前半であり、丁度私とタピオカのファーストコンタクトの時期と重なる。
そういうわけで、小学生の頃の私にはそこまで刺さらなかったタピオカ。
しかし、それは第二次タピオカブームで様相を変えることとなる。
第二次タピオカブーム、それは2000年代前半のことだ。
巷では『タピオカミルクティー』が爆発的なヒットを巻き起こしていた。
当時高校生だった私は、電車通学の乗換駅で日本発のタピオカミルクティーチェーン、パールレディを発見する。
そこで出逢ったタピオカミルクティーは、私の記憶の中のそれとは大きく異なった姿をしていた。
「でかっ……」
――そう、でかかったのである。
いくらサイズだったはずのタピオカは、いつしかパチンコ玉サイズに育っていた。
そしてもうひとつ、色も無色透明から黒へと変わっている。
これはどうやら黒糖やカラメルで色を付けているかららしい。
まるで別人のような顔をしているタピオカに戸惑いながら、私は太いストローをくわえてみた。
勇気を出して吸い込むと、ミルクティーと共に口の中にタピオカが飛び込んでくる。
噛んでみるともちもちと力強い食感、そしてほろ苦い甘み。
――あれ、なんだかおいしいぞ?
もう一度吸い込んでみる。
またもや飛び込んでくるミルクティーとタピオカ。
もちもち、ごくり。
ちゅるっ。
もちもちもち、ごくり。
……うん、これ、おいしいわ。
サイズ感がアップしたことで、もちもち感が増したタピオカは私を一瞬で虜にした。
しかも恐ろしいことに、パールレディはミルクティーのみならず様々なドリンクラインナップを用意していたのである。
抹茶やジュース、チョコミルクなど色々試したが、最終的に私は系列店である茶BARでホット杏仁をよく嗜んでいた。
ホットドリンクにタピオカ!? と思われるかも知れないが、これが意外に合う。
私の中ではぜんざいに入っている白玉のようなものだ。
そんなわけでそこのパールレディと茶BARには大学生になってからもたまに立ち寄っていた。
調べてみたらパールレディは閉店、茶BARは別の場所に移転してしまっているようだが、まだ残っているようでなによりである。
なお、第三次タピオカブームは2018年から2019年頃だったらしい。
こちらはみなさんの記憶にも新しいところだと思うが、それでももう7年前の話とは驚きである。
個人的にはまたタピオカが手軽に食べられるようになり、ありがたいことだ。
近年はタピオカといえばゴンチャという台湾発祥のカフェチェーンが人気である。
実は私も中国に住んでいた時たまに行っていた。
あちらでは『貢茶』と表記するのだが、中国人の友人と行くと「ここは本物のお店」「あそこの店はニセモノ」と教えてもらったのが懐かしい。
私には違いがわからないのだが、どうやら看板を見るとそれがわかるらしい。
たまたま今自宅の最寄り駅にもゴンチャがある。
ここはきっと本物だろうな、と思いながらたまに買って飲んでいる。
しかし、1杯飲みきろうとすると胸焼けしてしまうのが最近の悩みだ。
甘いタピオカドリンクをごくごく飲める――それはもしかしたら青春の証なのかも知れない。




