作戦会議Ⅰ
あの四天王とやらと戦って四日ほどが過ぎた。フォーゲルシュタットはずれの町酒場で、私とルーグは仲間集めを含めた今後の予定を話し合うことにした。
「とりあえず、この期間集めた情報を共有しましょう。ルーグ、何かいい話はあった?」
「えっと……とりあえず、城の人間とか当たってみたんですが、王都の人間は協力者としてはあまりあてにできなさそうですね。やはり冒険者や中立種族の方が経験も情報も上です。」
まぁ、そこに関してははじめからあてにはしていない。そもそも私達が駆り出されることが王都としては切羽詰まっている状況だ。物資的な援助はともかく、戦力的な援助は期待できないだろう……あれ、物資的援助って、何かあったか?
「あ、ですが一つ、使えそうな話がありました。聖域アタラクシアって知ってます?」
「ああ。王都から山をひとつ越えた先にある、盆地だな。」
聖域アタラクシア、王国正教の本拠地があり、多くの神父や修道女が修行している地だ。今の女王の先祖はかつて、神の使いとして天からあの地へ降り立った……とかいう伝承がある。
「そこの聖剣を抜いたやつがいるらしいんですよ。それも一介の修道女が。」
「噂では聞いていたが……まさか本当だとはね。」
アタラクシアにある聖剣・フレンヴェル。かつての先祖様もその聖剣を振るい、人族の意思をひとつにまとめ魔族と戦ったと言われている。持ち主の心に呼応し、持ち主の望みを叶える形に姿を変えるとも。
「なんせ何百年も抜けなかったと言われる聖剣ですからね。そいつを抜いたってなると我々の協力者としても相応しいんじゃないです?」
「確かに、アタラクシアの修道女なら聖魔法も使えて心強いだろうし、行ってみる価値はあるね。」
聖魔法は神の加護を用いて傷を癒したり、魔族の力を防いだりする魔法だ。聖地で修行を重ねた聖職者が習得する貴重な魔法ながら、当然その重要度は高い。こないだのルーグの怪我ならいざしらず、傷を負う度に街に戻るのはいくらなんでも効率が悪いからだ。
「それに、アタラクシアならイェーゴからも近いな……。」
イェーゴとは、アタラクシアを囲む山の麓にある村だ。
「アルエット様?イェーゴに何かあるんですか?」
「あるもなにも、四天王の1人がそこにいる。」
そう。イェーゴは魔族との戦いとの前線のひとつであり、四天王――『女王蜂』の侵攻を受けている。イェーゴを過ぎればそこは魔族領だ。
「あらかた魔族の四天王とその統治領域について、人をやって調べておいた。どうやら、『女王蜂』に動きがあったらしくてな。先んじて手を打とうってことだ。」
デステールがどこまで王都の情報を持っているのか分からないが、『女王蜂』に動きがある以上魔族側に勝算がある情報を掴まれた可能性がある。後手に回るのは得策とは思えない。
「……決まりですね。」
「ああ、明日アタラクシアに向かおう。」
そうして、二人は酒場を出た。