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遺恨ⅩⅨ 回想『魔族襲撃事件』⑤

 カトレアはクリステラに攻撃を続けていたが、クリステラは不気味な笑顔を崩さない。


(何度もまともに当たっているはずなのに……まるで隙が生まれない!)

「あはぁ……気持ちいいわぁ。もっと激しくても大丈夫よぉん。」


 クリステラは恍惚とした表情で、身体をビクビクとし悦楽に浸っている。カトレアは肩で息をしながら表情を歪ませる。


「キモ……だったら、お望み通り蜂の巣にしてやるわ!」

「あは、蜂女なりのおもしろギャグのつもりかしらぁ。楽しみねぇ。」


 カトレアは胸めがけて高速で槍を突き出す。クリステラは躱しきれず肩の辺りを槍が掠める。体制が崩れたクリステラに向けてカトレアはすかさず3連撃を叩き込むが、どれもクリステラにはヒットするものの急所へのダメージとはならなかった。再び二人は間合いを取る。


(さっきから、当たるには当たるのにまるで有効打になってる気がしない……というか、ラムディアはいつまでかかってんのよ!)

「うふふ……貴方の巣ってこの程度なのね。もっと頑張って欲しいわぁん。」


 クリステラの挑発に、カトレアはあからさまにイラッとする。


「うっざ……お前、絶対に殺すわ。」

「いいわよぉ、そうそう。気持ちいいわぁん。」


 カトレアが飛び出そうとした瞬間、


「ラムディア、危ない!!」


 ロマリアの叫び声が響いた。カトレアが思わず振り返った時には、ラムディアを庇ったロマリアの腹部に光の矢が突き刺さっていた。


「え……。」


 カトレアは目の前の出来事が理解できず、呆然とその光景を見ていた。


「団長さぁん、待ちくたびれましたよぉ。」


 クリステラはその隙を見逃さなかった。カトレアが気付いて振り向いた時にはもう遅く、一瞬で距離を詰めたクリステラがカトレアを殴り飛ばした。


「うぐっ……」


 不意を付いた一撃が決まり、カトレアは数メートル先の地面に投げ出されてしまった。クリステラの重いパンチに、しばらく目の焦点が合わず仰向けに倒れながら動けずにいた。そこへ、


「先程までのお礼ですぅ。」


 クリステラが高くジャンプし、寝そべっているカトレアの腹部に向かって膝を突き立てた。


「ぐはっ、がはぁ!」


 クリステラが立ち上がり、カトレアは腹を押さえ悶絶している。


「カトレア!!」


 ラムディアが気付き、カトレアに駆け寄ろうとする。しかし、


「残念でした。」


 ラムディアの背後からラルカンバラの飛び蹴りが決まる。ラムディアは前方に倒され、ラルカンバラが馬乗りになってのしかかる。ラルカンバラはナイフを取り出し、


「おりゃ」


 ラムディアの両肩に突き立てた。


「ああああっ!!」

「このナイフはねぇ、特別製でね。そろそろ効果が出てくるかな。」


 ラルカンバラがそう呟いた瞬間、ラムディアの妖羽化(ヴァンデルン)が解けた。


「嘘……なんで!?」

「こいつで斬ったら傷口から魔力が漏れ出すようになるんだよ。それで妖羽化(ヴァンデルン)が解除されたのさ。さて」


 ラルカンバラは盗賊団メンバーに合図を出した。


「お前ら!妖精種(ニンフェリム)の血だ!!飲め!!!」


 クリステラ以外の盗賊団メンバーがラムディアのもとに群がり、ラルカンバラがまず肩に齧り付くようにして血を吸い始めた。


「あう……はっ、あっ、ああん……」

(力が……抜けて、ダメっ……)


 盗賊団メンバーもラムディアの逆側の肩を咥えて血を吸い始める。クリステラはその様子を冷めた眼差しで見つめながら、足元のカトレアの首元を持ち、拾い上げる。


「うっ」

「見なさい。」


 クリステラは指を器用に使い、カトレアの首だけをラムディアの方に向ける。


「あの子も可哀想にねぇ。思い知った?貴女達の弱さがこの結果を生んだの。」

「はな……して……」

「あぁん?」


 突如クリステラから笑顔が消え、首を掴む力が強まる。


「あがっ、あああああ!!!」

「あんたねぇ、誰に指図してるの?自分の立場が分かってないわけぇ?このままちょっと力を込めればあんたは死ぬの。分かってる?」

「うぐっ、うう……」


 カトレアの目から、涙が溢れた。


「おい、シスター!お前も早く来いよ!」

「はぁい。分かりましたわぁん。さて」


 クリステラは手に一層力を込めた。カトレアは白目を剥き、泡を吹いて意識を失った。クリステラはカトレアを無造作に放り投げた。


「貴女に恨みは無いのだけどねぇ……ごめんなさいね。うふふ。」


 そう言い残して、クリステラは盗賊団へ合流した。



「ぷはぁ!団長、もうおなかいっぱいですわぁん。」


 クリステラはラムディアの肩から口を離し、肩を地面に投げ出した。


「あ……う……」

「団長、こいつら、どうする?」

「おめえがクラウディの娘まで殺しちまったのは誤算だったなぁ。ま、みんな妖精種(ニンフェリム)の血は飲んだし、そろそろ帰ろっか。」

「賛成ぇ〜。わたくしお風呂入りたいですわぁん。」


 そう言い残し、盗賊団は闘技場から去っていった。

 最初に動いたのは……死んだと思われたロマリアだった。ロマリアは身体を引きずりながら、ラムディアの元へ辿り着く。


「ラムディア……生きてる?」


 ラムディアは意識が朦朧としていたが、ロマリアの声で正気を取り戻した。


「ロマ……リア、生きていたのね!」


 ロマリアはその言葉に微笑みを返し、何も言わなかった。ラムディアは力を振り絞って、身体を起こす。そこで初めて、ロマリアの身体の惨状を思い知ることになる。


「ロマリア!!!」


 青ざめた表情、異常な量の脂汗、細かくブルブルと震える指先、そして夥しい量の血液とぽっかりと空いた腹部の大穴……その全てが、ロマリアの寿命が尽きかけようとしていることを物語っていた。


「嘘……私のせいで、みんな……」

「ラムディア、落ち着いて、聞いて欲しいの。」

「だめ、喋らないで。」

「時間がないわ。今から『武器変化(アモルフォーゼ)』を使う。」

「やめて、そんな事しないで、1秒でも長く生きて。」

「1秒じゃ何も変わらないわ……。それに、この武器変化(アモルフォーゼ)は特別なの。あたしの心臓と……命を媒介に、魔剣を作り出す。そうすれば、いつまでも皆と一緒に……。」

「バカ……だいたい、セリバにどう説明すんのよ。」

「ああ、そうね……。首輪付けられないの、残念だなぁ……。」

「またそんなこと言って……」

「ごめんね。最期に……顔が見たいわ。」

「ッ……!」


 ラムディアは言葉に詰まった。そっとロマリアの肩を抱き、仰向けにして自分の膝元に寝かせる。


「痛くなかった?」

「うん。もう感覚がないの。あんたねぇ、ひっどい顔してるよ、もう。泣きすぎ。」

「うっさい、バカ。」


 ラムディアは腕で目を塞ぐ。


「セリバには上手く言っといてね。……あんまり早くこっちに来たら、口きいてやらないから。」


 ラムディアは腕で涙を拭い、ロマリアの手をギュッと握る。


「ありがとう。それじゃ、みんなと……ラムディアを、導いてちょうだい……『武器変化(アモルフォーゼ)』」


 ロマリアが言い終わり、身体が光に包まれる。光が止んだ頃には二振りの剣が、ラムディアの膝元に寝かされていた。無機質なのに暖かい刀身が、ラムディアの無力感に突き刺さって離れない。


「バカは、私でしょうが……!」


 ラムディアの慟哭だけが、闘技場に鳴り響いた。

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