1回戦負けだけど自分の相手が優勝したときみたいなそんな気持ち
魔王軍四天王……お母様から聞いた通りの言葉。それならば、目の前にいる奴は、結局いずれ倒さなければならぬ相手ということだ。
「流石に、探す手間が省けてラッキー!とは言えないね。」
正直なところ、基準にしようとしていた魔族が規格外なだけだったとほっとしている部分がある。まあ、そもそも生きて帰ることができるかの心配をすべきなんだが。
だいたいなぜ四天王とかいう偉そうな奴がわざわざ自分で斥候なんてしてるんだ。そんなものは部下に任せて前線で戦いなさいよ。その魔力を無駄遣いするんじゃないわよ。と、心の中で不満を撒き散らしておく。
「アルエット様、よろしいですか。」
「ルーグ……、大丈夫よ、もう切り替えたから。」
「いえ、そうではなく……。俺が奴を引き付けておきます。お逃げください。」
「えっ、ちょっと待って!」
言い終わらぬうちにルーグはデステールに突進する。
「守賢将デステール、相手にとって不足なし!アルエット様の護衛ルーグ、参る!!」
「いいねぇ!返り討ちにしてくれる!!」
デステールも刀を抜き、二人の打ち合いが始まる。勝手に飛び出したルーグに辟易しながらも、彼の行動を無駄にしてはならぬと、城の方に走り出した……が、見えぬ壁に行く手を阻まれる。既に結界が張り直されていた。
「逃げようとしても無駄だよ。君たちにはその結界は破れない。」
ルーグの剣撃をいともたやすく受け流しながら、デステールが答える。
「効果をアルエット・フォーゲルただ1人を閉じ込めることだけに絞ることで強度を限界まで高めているんだ。何者にも破れはしない。」
確かに、込められた魔力の練度、方術そのもののレベルと魔力変換回路の効率、直前まで私に気付かれなかった隠密性の高さ、もはや芸術の域に達するほどの術式だった。
そうなると、ルーグが勝つことに賭けるしか……
「ぐううっ」
「ルーグ!!」
デステールの袈裟斬りが1本、ルーグに入ってしまった。デステールはそのまま膝を着くルーグに止めを刺すべく、刀を大きく振りかぶる。
「まずは一人目」
やめて……やめてやめてやめてやめてやめて……!!
「止まれ!!!!!」
今まで出したことも、出せると思ったこともないような、大きく、強く、怒りに満ちた声だった。
瞬間、デステールの刀が止まる。
「何っ……指一本動かせん!!」
(な……アルエット様……これは……)
身体が熱く、まるで沸騰しているかのような、肚の底から血が沸き立つ感覚。自分の意識の半分がまるで言うことを聞かない。その衝動に動かされるままルーグとデステールに近づいていく。
「ルーグ、城に戻れ」
「え、アルエット様、そんな……」
ルーグは言い終わらぬうちに、怪我をおしながらも城に戻って行った。
「なんだこれは、なんなんだその力は!!くそっ、動けよ!!」
「デステール、結界を解除しろ」
「ぐぅっ」
(閉じ込める結界も強制的に解除された……いや、解除してしまった。意思は抵抗できているが……身体が抵抗しきれない。洗脳に近い、魔法ではない、まさか……)
「デステール」
死ね、と続くつもりだった。しかし、
「ちっ!」
危機を察したのであろう。デステールの姿が消えた。同時に、アルエットはその場に倒れ込んだ。
その後は戻ってきたルーグによって私はフォーゲルシュタットの病院に連れ込まれ、二人揃って病院の世話になった。ルーグが斬られてからのことはあまり覚えていない。デステールを撃退した声についても、あれから何も無い。というか曖昧な記憶しかないので、そもそも撃退したというのが信じられないくらいだ。
「いや、本当に死んだかと思いましたよ。アルエット様。改めて助けていただき、ありがとうございました。」
「ああ、うん……私が助けた実感、あまり無いんだけどね。ルーグ、早く元気になってね。」
「もちろんですよ!アルエット様をいつまでも待たせるわけにはいきませんから!」
とりあえず、ルーグが生きてて良かったけど、あのデステールとかいう男、二人じゃとてもなんとかできるような相手じゃない。ルーグが治ったら協力者を探さなきゃ。
そう心に決めて、私は病室を去った。