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エピローグ③ 拝啓アルエット:アタラクシアの聖女より

 お久しぶりです、アルエット様。アムリスです。

 皆で魔王を倒したあの日からもうすぐ五年が経ちます。王都の復興も順調に進み、人々の生活にも余裕が生まれ始めています。というのも、エリフィーズのヴェトラ様が王都復興に全面的な協力をしてくださったんです!復興に際して有用な魔法を使うエルフの皆様が街に住み込みながら働いてくださったおかげで、復興スピードが何倍にもなったんです。なので最近は定期的にヴェトラ様達を招いてお酒を差し入れているみたいですよ……あ、アルエット様はお酒飲んじゃダメですからね!

 ルーグさんは魔王討伐の功績で騎士団長になったみたいです。といっても最近は大量発生した魔物の討伐くらいしか仕事がないそうで、専ら復興の力仕事を請け負っているみたいです。街中でよく騎士たちの訓練をしているらしいのですが、結構女性人気が高く、連日デートのお誘いが絶えないそうですよ!アルエット様的には嫉妬しちゃったりしそうですか?でもルーグさん、残念ながらデートやお見合いのお誘いを全て断っているみたいなんです。もったいないですよね……だからこないだ聞いてみたんですよ。


「ルーグさん、なんでお見合いとか全部断っちゃうんですか?もったいない……」

「そりゃだって、タイプじゃないからさぁ。」

「タイプ?どんな人がタイプなんですか?」

「……黒髪ロングで、痩せ気味だけど痩せすぎじゃなくて、黒目で、酒に弱くて。良くも悪くも周りを巻き込んで動かす力があって……でもそれに振り回されるのも悪くないなぁって思えるような、年上の人。」


 ……面白くないですか?こんなことを真顔で言っちゃうんですよ!臭すぎますって!!それになんだか癪だったんで言ってやったんです。


「……あのさ、気付くのが遅すぎだよね。ルーグさん。」


 って!そしたらルーグさん、ネカルクと戦ったときみたいな殺気を放ちながら涙をポロポロ流したんですよ。そして訓練場のテーブルに置いてあった剣を抜いて構え始めたんで、その日はそのまま逃げました。1ヶ月は口を聞いてくれなかったですね……。とにかく、ルーグさんは未だに独身ですが元気そうに暮らしているみたいです。


 アタラクシアではあれから二年後にデミス様が教皇から退きました。今は孫娘のヴィオラちゃんと二人で暮らしているみたいです。新しい教皇様はデミス様の息子さんなんですが、デミス様とは違って自分自身が各地を回って仕事をする方なんですよね……。仕事はできる方なんですが、教皇様不在時のアタラクシアはどうしても負担が大きくなります。それをデミス様に相談したんですが……


「ほっほっ……そりゃ、アムリスを信頼しとるんじゃ。仕事の割り振りリストも事前に渡してあると聞くし、緊急時の通信魔道具も携帯しているんじゃろう?」


 としか言わないんです。それって信頼なんですかねぇって思うんですけど、アルエット様はどう思いますか?まあ仕事ですから割り切って対処しますけど。

 そういえば私のことを書き忘れていました。私は魔王討伐の功績で新しい地位を作っていただきました。その名も……"聖女"です!どうですか!!清らかで美しい私にピッタリの地位ですよね!?!?……すみません、取り乱してしまいました。デミス様のセンスおかしくないですか?聖女だなんて仰々しい称号、私なんかに似合うわけないじゃないですか!そのおかげでルーグさんには聖女"様"って呼ばれるし、もう一人の馬鹿エルフには毎日煽られますし……ほんと、最悪です。でも、新しい地位を作ってくれたことはとても感謝しているんです。聖女は身分として独立した存在になるので、教会の現場仕事をし続けるだけで権力争いや派閥争いからも無縁になるんです。なので仕事と子育てに集中できるんですよね!

 あ、そうでした!子供が二人できたんです。三歳の男の子と一歳の女の子です!ふふ、ちょっとアルエット様とお兄様みたいな感じですね。お兄ちゃんの方は少しずつ夫に似てきてとっても可愛いんですよ!!目に入れても痛くないってこのことなんですね!最近は夫の仕事が落ち着いてきたので、私が仕事をしながら夫に育児をしてもらっているんです。今も私の目の前で一緒に遊んでくれています……意外ですよね?ガステイルって子供が大好きなんですよ。まあ、本人に言ったら怒られるんですけど。

 ガステイルはエリフィーズで別れたんですが、ヴェトラ様の復興支援部隊の一員としてフォーゲルシュタットに来てくれたんです。そのときにヴェトラ様が気を利かせてくださいまして、私の家に彼を住まわせてくれたんです。アタラクシア付近ですから通勤が大変なんですけどね。そのまま同居して今に至るというわけです。

 こうして手紙を書くきっかけになったのも、ガステイルのおかげです。アルエット様に言われたように、今の私はガステイルと共に暮らす幸せを噛み締めています。だけどこの五年間、私達三人はひと時も貴女のことを忘れたことはありません。叶うことならもう一度貴女にお会いして、文句と怒りと恨みと……とびっきりの感謝を、貴女に伝えたいんです。あの日言えなかったことを全部言ってやりたいんです。だからこの手紙にその想いを込めて託すことにします。


 世界を救ってくれて、ありがとう

 そして

 私の希望になってくれて、ありがとう

 敬具


 P.S.下の子には、アルエットと名付けました。ガステイルはたまに殿下って呼んでいます。

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