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決戦ⅩⅩⅦ 人造生命の企む世界

 フォーゲルシュタット王城、玉座の間にて。シイナの乱入により一同は騒然としていた。


「な……新手か!?」

「いきなり仲間割れ……?」


 突如として一変した戦況に対応しきれないデミスとアドネリアをよそに、シイナはシーベルに突き立てたナイフにより力を込めていく。


「シ……シイナ……敗残の人形ごとき……が……」

「貴女は総大将の器ではありません。魔族をとりまとめる求心力も実力もない貴女に……魔王の座は荷が重すぎるでしょう。」

「知った……ふうな、クチを……」


 シイナはナイフを無造作に引き抜き、シーベルがどさりと崩れ落ちて息絶える。それと同時に、護衛を固めていた魔族も溶けるように崩れ落ちた。


「うげぇっ……」

「どうやらあの眷属というのは、死霊術も兼ねていたようですね……」

「その通り。今の女は死霊術士フラーヴという男の孫娘、死霊術の腕は祖父譲りです。」

「フラーヴ……四天王の一人か。」

「はい……先日、お父様の手によって殺されましたが。」

「フラーヴを殺した……!?貴女の父親って……」

「四天王の一人、守賢将デステール・グリードです。」


 シイナがそう答えた瞬間、デミス達は武器を構える。


「デステールの手下……つまり、この街を攻撃した魔族……!!」

「厳密には魔族ではありませんが……確かに、あの軍勢を率いたのはこの人型結界刻印装置C-17でございます。」

「う……うわぁぁぁぁぁ!!!」

「殿下!」


 アドネリアが激昂しながらナイフを構えてシイナに突撃する。隙だらけで速さもない突撃だったが、シイナは微動だにすることなくアドネリアのナイフを受け入れた。


「なっ……!?」

「え……」


 困惑したアドネリアとデミス。シイナは口から血を吹き出しながらゆっくり微笑み、二人に語りかける。


「殿下、満足でしょうか?」

「は……?」

「かつての戦の仇討ちは、これで満足でしょうか?」

「っ……!!」


 アドネリアは目を見開き、シイナの挑発に飛び出しそうになる。しかしそれよりも早く飛び出したのは、彼らの護衛たちだった。


「くそっ……こいつら、あの戦闘を正当化でもする気かよ!」

「俺の家族はこいつらに殺されたんだ、俺自身で復讐しないと気がすまねえ!」

「お前たち……」

「殿下だってそうですよね、女王様があんな感じに殺されて……」

「……」


 強く拳を握り歯を食いしばるアドネリア。そうこうしている間にもシイナは殴られ蹴られ、剣で斬られ続けていた。やがてアドネリアはその様相から顔を背けながら告げる。


「そこまでにしなさい。」

「え……?」

「そんなことをしても意味がないでしょう。それよりも情報を聞きとる方が大事です。」

「……情報とは、お父様のことでしょうか。」

「ええ、まあ、そうですね。」

「それなら大した情報はございません……お父様は魔王に殺されました。先程そのような信号を受信したので間違いはございません。」

「そう……」

「それでは、先程の続きをされるのでしょうか?」

「……」

「それは、私に魔族を率いて攻め落とした罪があるからでしょうか?それとも……私が魔族及びそれに準ずる者だからでしょうか?」


 シイナの言葉にハッと目を見開くアドネリア。目が泳ぎ言葉を選ぼうとしているアドネリアを差し置いて、改めて護衛たちはシイナに向かって進んでいく。


「魔族は許してはなりません!」

「このフォーゲルシュタットから追い出すべきでしょう!アドネリア陛下!!」


 シイナは護衛たちの言葉を聞き、アドネリアからの声を待つかのように彼女へ目配せする。アドネリアは俯き唇を噛み締めながら、


「私には……魔族排斥を民が掲げるのなら、止める術を持ちません。魔族の居ない街が民の幸せというのなら、私はそれを目指して国を作らなければならないのです……!」


 そう、声を絞り出した。シイナはその言葉を聞くと微笑むように口角を上げながら


「……その言葉を待っておりました。」


 そう呟き、自身にかけていた結界を解除しジューデスへと瞬間移動した。



 魔王城前、映像を流し終わった魔道具は音を立てて崩れ去った。ルーグ、ガステイル、アムリスの三人はホッとしたように胸を撫で下ろした。


「何はともあれ、王都の方は一件落着したみたいですね。」

「そうですね。あとはあのバカでかい球を何とかしないと……。」

「早く片付けて、王都に凱旋しましょうね!アルエット様!!」


 アムリスのその言葉と同時に、ルーグとガステイルもアルエットの方へ顔を向ける。そこでようやく、一同はアルエットの様子がおかしいことに気付いた。


「アルエット様……?」


 アルエットは三人に背を向け、魔王城を見上げていた。そしてそのまま、少し俯きながら口を開く。


「シイナ……貴女がここに来た理由、分かったわよ。」

「……お父様はネカルクを倒すとこうなるだろうと分かっていました。お父様はもしご自身がネカルクを倒した場合、次期魔王に君臨し彼女の計画を阻止するつもりでおりました。ですが……」

「私がお兄ちゃんにも、ネカルクにも勝っちゃった……だからお兄ちゃんは『自分の世界を作れ』って言ってたのね。」

「その通りです。そして私には魔族をとりまとめ、アルエット殿下に仕え補佐しろとお命じになられました。」

「……さっきからこの妖羽化(ヴァンデルン)を解除して元の姿に戻ろうとしているんだけど、上手くいかないのよ。この姿のままじゃ、今の王都には帰れない……これもきっと、そういう導きなのかもね。」

「帰れないって、何を言っているんですか、アルエット様!!」


 不穏な何かを感じとったルーグの言葉で、アルエットはようやく振り返り、三人に向けて笑顔で言い放つ。


「私、王都には帰らないわ。ここに残って……次の魔王になる。」


 ルーグ達は言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。

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