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決戦ⅩⅩⅤ "ネームレス"

 アルエットを包む繭が晴れる。現れたアルエットは背中から白と黒の翼が生え、胴体と腕の肘から先、脚の膝から下に獣のような黒い毛が生えている。肌が露出した二の腕と太もも、そして赤色に変化した右目の周りには白い文字で描かれた円形の魔法陣が刻まれていた。その姿を見ながら、ネカルクは肩を荒らげながら悪態をつく。


「……ば、化け物め!」

妖羽化(ヴァンデルン)完了。強欲と破壊の堕天使、名前は……」


 自分の手を見ながら様子を窺うアルエット。そこへ有無を言わすまいとネカルクが不意を打ち襲いかかる。アルエットはネカルクの方へゆっくりと向き直り手をかざした。するとネカルクは透明な壁にぶつかったように食い止められる。


「なっ……」

「あれは、結界!?」

「今は、強欲と破壊の堕天使(ネームレス)、でいいか。」


 怯んだネカルクに、アルエットは一気に間合いを詰めて襲いかかる。右ストレートが顔面へとヒットしネカルクは思わず後方へよろめく。さらに追撃するアルエットだったが、


「むうっ!」


 ネカルクの触手がアルエットの翼を掴み、無理やり食い止める。


「あまり調子に乗るなよ小娘ぇ!!」

「ぐ……ぐぐぐぐ……!!」


 ネカルクの触手で後方に引っ張られながらも、アルエットは無理やり一歩ずつ進んでいく。ネカルクは顔を歪ませる。


「何ィ!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 アルエットが叫ぶと同時に翼を激しく振り、ネカルクの触手を無理やりちぎった。その瞬間、アルエットの右腕がネカルクの胸部、心臓を一つぶち抜いた。


「ば……馬鹿なッ」

「あとひとつ……覚悟しろ、ネカルク!!」


 ネカルクは胸部を押さえながらよろよろと後ずさる。啖呵を切るアルエットだったが、横から触手の塊に殴られて吹き飛ばされる。ネカルクは踵を返し玉座の元へとよろよろと戻っていく。そして再びアルエット達の方へ振り返る。


「……予想外であったぞ、余がここまで傷つけられるとは。」

「……どういうつもり?そんな言葉で油断するとでも思ってたら大間違いよ。」

「いやいや、余は本当にお主たちを評価しておる……このまま戦い続ければ、すぐに余はお主たちに殺されてしまうのじゃろう。」


 ネカルクは不敵な笑みを浮かべながら、アルエットを見下ろす。アルエットは一層不審がりながらネカルクを睨みつける。


「じゃが、余はお主たちに殺されはせん。ふふふ……」


 ネカルクはそう言い、頭上にある白い玉に手を触れる。そして語りかけるようにアルエットへと告げる。


「魔王の本質とは何か、ご存知かな?」

「本質も何も、魔族を統べる王ってこと以外に何かあるの?」

「それは形式であって本質ではない。先程も話をしたが魔王……ひいては魔族と竜族の悲願とは神への復讐である。それは自らの命よりも優先すべき課題であり、魔王の本質とはそれに殉じる贄であるのだ。」

「贄……?」

「ああ……そしてこの球体こそがその象徴、歴代魔王が魔力を込め、生涯を終える際に心臓を捧げた究極の魔道具である。」

「その魔道具が、神を殺すとでもいうの?」

「こいつが起動する魔法は単純……『成長』だ。魔王の死と共に起動し、これまでに貯め込まれた歴代魔王達の魔力を使いながら無尽蔵に成長していく……この世界を潰しても止まることなく成長するこの球体がやがて神界を引き寄せ、文字通りそのまま押し潰す。魔族に認められた新たな魔王が現れない限り滅びは避けられぬが……残念だったのう、余にはもう後継者なぞおらぬ。」

「……チィッ!!」


 ネカルクの演説を聞き、慌てて止めるべく駆け出すアルエット。しかしネカルクは自ら残った心臓を刺し貫いた。


「なん……!!」

「ふふ、見事であったぞというべきか……勇者アルエットよ。だがお主らの無知が引き金となり、この世界は滅びるのだ!」


 ネカルクは断末魔と共にその場に倒れ込み、そのまま動かなくなった。それと同時に白い球体が眩く光りながら、凄まじい勢いで巨大化を始めた。アルエットは舌打ちをしながら手を球体に向けて伸ばし、球体を封じ込めるべく結界を展開する。しかし結界は一瞬で破壊され、球体の成長を止めるには至らなかった。


「チッ……」

「結界でも止まらない!?どうして……アルエット様!!」


 ルーグは慌ててアルエットの元へ駆け寄る。アムリスと回復したガステイルも合流し、4人は共に白い玉を見上げていた。


「閉じ込める対象が多すぎる……歴代魔王の魔力を全て封じ込めるには、結界じゃ強度が足りない……」

「み、見てください!ネカルクの死体が……」


 ガステイルがうつ伏せになったネカルクの身体を指さしながら叫ぶ。白い球体の表面がネカルクの身体に触れ、触れた部分から彼女の身体がベキベキと音を立ててへし折れていく。生命体だった物質が無機質に押し潰されるその様に、4人は戦慄した。


「い、いやぁぁぁぁぁっ!!」

「こんなものが世界を潰すだって……どうすればいいんだよ!」


 劈くアムリスの悲鳴とルーグの絶望の叫びを聞きながら、アルエットは下唇を噛み俯く。そして三人の方へ向き直り、


「みんな、逃げるわよ!!」


 そう言って、玉座の間から連れ出した。魔王城の階段を急ぎ降りていき、やがてアルエット一行は勢いよく魔王城から飛び出した。そこにはアルエットの目を疑う光景が広がっていた。


「アルエット殿下……グレニアドール以来ですね。魔王討伐達成おめでとうございます。」

「シイナ……?それに、この魔族達は……」


 魔王城の前には、傷だらけの魔族たちがアルエット達に傅くように集まっていた。その先頭に立っていたのはシイナ、その身体は誰よりもボロボロであった。

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