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決戦ⅩⅩⅢ 高潔の復讐者、宿命に散る

「お兄ちゃん……?」


 アルエットは目の前で起きたことを未だ信じることができず、隣で倒れた男へ素っ頓狂な声をあげ尋ねる。しかし、


「ぐぅぅぅぅ……デ、デステール!死に損ないが、要らぬ手間を増やしおって、こんなもの、心臓をもう一度修復してやれば……」


 心臓を一つ潰され、妖羽化(ヴァンデルン)が解けて元の幼い魔族の姿になったネカルクが顔を歪めながらよろよろとデステールの元へと歩み寄る。デステールはそんなネカルクを嘲笑いながら、


「残念だな……魔王さんよ。僕は心臓を潰すと同時に一つの結界を発動した。"魔王ネカルク"を弾く結界を、心臓に繋がっていた血管に直接縫いつけたのさ。そうすれば……お前はその心臓を再生出来なくなる……。それに、対象に触れながら展開した結界は……僕が死んでも残り続けることができる。み、未来永劫、お前の妖羽化(ヴァンデルン)を封じてやったぞ……」

「畜生め……小僧が、調子に乗りおってぇぇぇぇ!!!」


 ネカルクがデステールの頭部を踏みつけるように足を上げる。振り下ろされる直前、ルーグがネカルクを体当たりで吹っ飛ばす。


「むぐぅ!」

「アルエット様……邪魔立てはさせませんから、悔いのないように。」


 ルーグはデステールの頭上に立ち、背を向けたままアルエットに優しく言葉を送った。アルエットはデステールの手を軽く包み込むように握る。


「どうやって、ここに?」

「最後にお前にかけた結界の自壊効果さ。発動者が生存している場合……対象の致命傷を肩代わりする効果を……かけてたんだ。」

「お兄ちゃんには、いつからそんなに見えていたの?」

「はは……流石にこんなことになるとは思わなかったさ。ただ、お前が魔王に挑むことになったら……そのときはこうしようとは決めてたかなぁ。」

「そう……」


 アルエットの言葉が詰まり、下唇を噛み締めながら拳を強く握っていた。デステールの目から徐々に光が失われていく……それでも、デステールは笑顔を壊すことなく、アルエットに語りかけた。


「アルエット……人間は、好きか?」

「うん……大好き。アムリスもルーグも、王都のみんなも、旅先で出会った人間達も……お母様も。バカだなって思って嫌なことも喧嘩することもあるけど……嫌いにはなれないよ。」

「そうか……だったら守ってやらないとな。お前と、僕と、お前の仲間たちの力で……人間の世界を守ってやるんだ……。」

「……お兄ちゃんは、それでいいの?ケイレスでもグレニアドールでも人間に酷い目に遭わされたのに。」

「不思議だよな……でも僕もアルエットと同じさ。どうしようもなく愚かで、その愚かさに傷つけられたこともあったけど……それでも、だから滅ぼせばいいとは、僕は思わなかった。だから……僕はお前が作る世界の方がいいと思った。」

「……」


 アルエットはいつの間にか、デステールの服の裾を強く握っていた。ふるふると細かく揺れる拳、デステールはその拳をそっと包み込むように触れた。アルエットは思わず、堰を切ったように本音を吐き出した。


「なんで……なんでっ!もっと早く素直になってくれなかったの?」

「……それは、僕がお前の兄で、ケイレスの跡取りだからさ。兄として……セイレーンの生き残りとして、妹の幸せと復讐より優先するべきことはないんだ。」

「……意味わかんない。私が優先だって言うのならなんでお母様を殺したのよ!なんで……なんで私を置いて逝っちゃうのよ!!」

「……」

「全部、結局自己満足じゃない!復讐なんて誰も望んでない!復讐して……私に恨まれながらひとりぼっちで生きた挙句、こんなところで今度は私を一人にして置いて逝くなんて、私ちっとも幸せじゃない!!」

「そいつは……悪かったなぁ……」


 デステールの胸に縋り付きながら喚くアルエットに、デステールは呆れ困惑しながら目を逸らす。暫くアルエットをそのままにしていたデステールであったが、やがてゆっくりと身体を起こさせ、右手でアルエットの手の甲をさすりながら……仰向けのまま、再び口を開いた。


「……さっきも言ったが、胸を張れ。僕に構うことはない。お前が作る……お前の好きな世界を……謳歌するんだ……。」

「嫌だ!!私が作りたい世界は……お兄ちゃんと共に生きる世界なんだ!!!」


 アルエットはデステールの手を握り、その身に縋りながら泣き喚いた。しかし、デステールは何も言わなかった。目の光は完全に消え失せていたが、アルエットに向けていた表情は最期まで心配と申し訳なさが同居していた。


 ルーグはネカルクの攻撃をなんとか受け止め続けていた。ネカルクも満身創痍とはいえ、ルーグもそれ以上のダメージを負っていた。お互い立っているのがやっとの状況である。そして……得てしてそういう状況とは、なりふり構わなくなった者が強いのである。


「ふ、ふははは……」


 ネカルクはそのことを直感で理解していた。妖羽化(ヴァンデルン)という切り札を失った分、その境地に至るのに躊躇がなかった。


「余は……余は!負けてはならんのだ!!魔族と竜族の覇権を取り戻し、神々を否定せねばならんのだ!そのためには……なんだってしてやる!!」


 ネカルクはそう言うと、全ての触手を展開しめちゃめちゃに振り回す。その流れ弾が、アルエットとアムリスの元へと向かう。


「お嬢!!アムリスさん!!」


 アムリスは聖剣で迎撃する。ガステイルも多少回復し質量構築魔法でなんとか持ちこたえた。しかし、アルエットにはルーグの声が届いていなかった。

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