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決戦ⅩⅩ VSネカルク・アルドネア④

 魔王ネカルク・アルドネアが妖精種(ニンフェリム)であった……その真実に唖然と立ち尽くすアルエット。その背後で、ガステイルは険しい顔をしながらどこか合点がいったような口調で言った。


「だから、お前はデステールとラムディアに肩入れしていたのか。」

「そこまで露骨に贔屓したつもりはないがな……だがまあ、妖精種(ニンフェリム)という呪いに一生を壊された者同士、久しぶりに子供ができたようにかわいがっておったのは事実かもしれぬ。」

「子供……」


 アムリスはそう呟き、手に持っていたフレンヴェルをそっと見つめる。フレンヴェルのことを今はどう思っているのか……と問い質そうとするも、


『やめてくれよ、恥ずかしい。』


 とフレンヴェル自身に制止され、思いとどまった。そうこうしているうちに、ネカルクはアルエットをじっと見下ろしながら尋ねる。


「むしろ余にはお主の行動の方が理解できんな。故郷を滅ぼし挙句の果てに自分を攫った女に都合よく使い捨てられる……そんな生き方に理屈があるのか?」

「……何度も言わせないで。そんなもので私の240年を否定できると思わないでちょうだい。」

「それがお主の答えならば、やはり無知は罪だと言わざるをえないな……。お主の無知が我が四天王達を殺し、人間どもの無知がお主か余を殺す……十中八九、お主だろうがな。」

「……やっぱり貴女とは、分かり合えないわね。240年前、お兄ちゃんと私の運命が逆だったとしても……私は貴女の手下にはならなかったと思うわ。」

「初めて意見が一致したのう……余も、あれがお主だったら門前払いしておったわ。」

 

 ネカルクが言い終わらないうちに、アルエットは地面を強く蹴りネカルクに飛びかかる。爪を力強く振り下ろしネカルクを斬り裂いたが、アルエットの手には手応えは全くなくネカルクは傷一つ負っていなかった。間髪入れず、ネカルクの触手の一撃がアルエットを捉える。


「ぐっ!?」


 なんとか右手でのガードが間に合ったアルエットだったが、防ぎきることができずに右手越しにダメージを受ける。よろめくアルエットに向かって無数の触手が追い討ちを仕掛けるが、ルーグとアムリスが間に合いアルエットの前に割って入る。そして触手の攻撃を剣で受け止めようと構える。しかし、


「ハッ……そんなもの、防御になりやしないぞ!!」


 触手が二人の剣に触れた瞬間、ルーグが攻撃したときと同じように触手が剣をすり抜けていく。


「ちっ、防御もできないのかよ!」

「でもこうやってすり抜けたのなら、この触手は私たちに攻撃できないはず……」


 しかし、アムリスの思惑は外れ、剣をすり抜けた触手がそのまま二人の顔を打撃する。


「ガハッ!」

「嘘……すり抜けるはずじゃ……!?」


 予想外の攻撃に二人は地面を転がり、なんとか剣をついて立ち上がる。ネカルクは追撃を行うことなく、再び口を開き語り始めた。


「どうやら、お主たちは余の妖羽化(ヴァンデルン)を勘違いしているようじゃのう。」

「勘違い……?」

「そうじゃのう……おおかた、指定した魔力による攻撃を波に変換し受け流す、とでも勘違いしておるんじゃないかね?」

「……その通りよ。水鏡術と波を起こす魔法の組み合わせからの推測だけど、何が違うのかしら。」

「ふふふ……全く違うね。その程度ならデステールも妖羽化(ヴァンデルン)をさせるな、なんて言わないでしょうに。」

「なんなの?それ以外に隠し玉の魔法でも持っているっていうの?」

「いいや。ただ、発想を逆転させる必要はあるかもしれないね。そもそも余の実体が波などにはなっておらん、とかね。」

「は……?」


 アルエットは目を大きく見開き、信じられないといった様子でネカルクを見つめる。ネカルクは妖しく笑みを浮かべたまま言葉を続ける。


「波を発生させる魔法についてもそうだ……余が余の魔力を使って発生させていると思っているようじゃが、そこの回路にも仕組みがあったとしたら……?」

「な、何を言っているんだ?お前の妖羽化(ヴァンデルン)なんだから、お前の魔力で魔法を使っているに決まっているだろう!?」


 ルーグが剣で身体を支えながら、片膝立ちでネカルクに言葉を飛ばす。ネカルクはふうとため息を一つついた。


「……仕方ないね。白状してあげよう。余は受けた攻撃の魔力を多少ストックできる。そいつを記憶した水鏡術を余の全身に薄く展開していくのじゃ。その水鏡術の効果は、"ストックした魔力による攻撃全てを、水鏡術の表面に波紋を発生させる魔法へと変換する"というもの。つまりどんな一撃も余に届くことなく、水面を震わせるそよ風のように魔力の膜を波立たせるだけの魔法に変えられるのじゃ。」

「そ、そんなもの、どうやって倒せばいいのよ!」

「だから、妖羽化(ヴァンデルン)される前に一撃で倒す必要があったのね。妖羽化(ヴァンデルン)の前に魔力のストックを集める必要があるから、それまでの段階ならネカルクは攻撃を甘んじて受けてくれるから……。」

「その通り。もしくは、余がストックしきれないほどの大人数で挑むか……じゃのう。まあ、ストック五個でこの負担なら3桁人は欲しいかの……それも、お主らに並ぶほどの実力者をな。」

「だったら……だったら!!」


 膝をついて絶望するアルエットの右後方、アムリスが勢いよく立ち上がり、ネカルクに向かって聖剣を思いっきり投げる。


「今まで聖剣で通してたのは私の魔力……だったら、私の魔力を通さずにフレンヴェルの魔力だけでなら!!」


 聖剣がネカルクの心臓目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。しかしその聖剣もネカルクの身体に波紋を作り、そのまますり抜けていってしまった。


「そんな……」

「……先程、ストックは五個と言ったはずなんじゃがのう。余の額の星は魔力のストックの数を示しておる。五個……つまりお前たち四人と、我が息子フレンヴェルの魔力。これでお主たちの攻撃手段は完全になくなったわけじゃが……」


 立ちはだかる巨大な絶望に、三人は戦意を喪失し、項垂れてしまう。しかし、


「……」


 ただ一人、ガステイルだけは背後からネカルクを睨みつけていた。

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