決戦ⅩⅦ VSネカルク・アルドネア①
魔王城五階、階段を登りきったアルエットたちの前には一本の廊下が伸びていた。それまでの階層とは異なり左右の壁には扉がなく、長く続いた廊下の先に荘厳な雰囲気を醸し出す巨大な扉が一つ佇んでいるだけであった。
「間違いなく、あの先に……いるわね。」
「恐らく……いよいよですね。」
「ええ。みんな一緒に、無事にフォーゲルシュタットに帰りましょう!」
アムリスの言葉にアルエット、ガステイル、ルーグの三人が頷く。前衛にルーグとアムリス、そこに続くようにアルエットが続き、最後衛をガステイルが固めるように布陣を組みながら扉の前まで進んだ。ルーグが腕を捲りながら扉の取っ手を掴むと、
「いきます!」
その合図と共に力を込め、ドアをゆっくりと引きずるように開いた。四人は隊列を維持しながら部屋の中へと駆け込む。
アルエットの推測通り、その部屋は玉座の間であった。今までの部屋とは比べるべくもないほどの広さに、天井には巨大なシャンデリアが吊るされている。そしてアルエット達の正面――扉に正対した壁面の最奥には巨大な白い玉が埋め込まれており、その少し前方に置かれた玉座に魔王ネカルク・アルドネアは頬杖をついて座っていた。
「ついにたどり着いたわね……魔王ネカルク・アルドネア!!」
「……まずはデステールが辿り着くかと思っておったんだが、よもやお前たちが来るとはのう。」
「おに……デステールは、私たちが倒したわ。ここには来ない。」
「なんと……」
ネカルクは大きく目を見開き、頬杖をしていた右手から顔を離して顔を起こした。そして、
「フッ……フハハハハッ!!」
思わず吹き出してしまったように高らかに笑ったネカルク。アルエットはムッとした表情で彼女を見つめていた。
「いやなに……デステールと協力して余に挑めば万に一つほどは勝ち目があったかもしれんのにと思ってのう。」
「……いいや、きっと今この場にお兄ちゃんがいても結果は変わらないと思うわ。私の予想が正しければね。」
「予想?」
「あんたの妖羽化についてよ。生憎、いろんな人たちに口酸っぱく言われてたものでね。ここに来るまでに対策を立てさせてもらったよ。」
「……随分と、傲慢不遜な人間じゃのう。貴様らを掃除するためだけに余が本気を出すとでも?」
魔王ネカルクはそう言うと、玉座をゆっくりと立ち上がった。ネカルクの顔から笑みが消え、アルエットを鋭く睨みつけながら言う。魔王の体から魔力が迸り、相対する四人は思わず息が詰まる。
(正直……そこは賭けでしかない。私たちが全力を出し切っても、妖羽化前の魔王に歯が立たない可能性すらある。だから、ここは……)
アルエットは魔王の魔力に歯をギリギリと食いしばって耐えながら、ニヤリと強気に笑いながら叫ぶ。
「もちろん……妖羽化なしで勝てる相手じゃないと思わせてやるさ!!」
(ここは全力で、ハッタリをかます!!慢心にしろ怒りにしろ、パフォーマンスを落としつつ……私の一撃を通す隙を作らせるッ!!)
アルエットの頬に一雫の汗がたらりと流れ落ちる。ネカルクの魔力と威圧感はますます大きくなり、髪のように伸びた無数の触手が首をもたげアルエットに照準を合わせる。
「舐めよってからに……いいだろう!その言葉、後悔させる間もなく粉々にしてやる!!」
触手を大きく広げながら床を蹴りアルエット達へと襲いかかるネカルク。それとほぼ同時に、アムリスとルーグの前衛二人が迎撃するべく、剣を構え突撃する。
「うおおおおお!!」
「小癪なッ!!!」
ネカルクはアムリス達の突撃を対処するべく、自身の前方に無数の触手を伸ばす。アムリスとルーグは剣でその全てを捌ききり、勢いを緩めることなくネカルクに激突する。
「魔王!!」「覚悟!!」
「ちぃっ!!」
二振りの聖剣がネカルクに振り下ろされる。ネカルクはそれを両手で受け止めると、ニヤリと笑いながら叫ぶ。
「かかったな、余の触手は再生するのじゃ!!」
「なっ!」
二人に斬られていたネカルクの触手が元通りの長さへと再生し、方向を転換し再びルーグとアムリスを狙い背後から襲いかかる。その瞬間、
「させない!『火炎の弾丸・着弾爆発』!!」
アムリス達に向かいかけた触手が爆発し、驚いたネカルクが受け止めていた剣を投げ捨てながら間合いを取る。そのまま火炎の弾丸が放たれた方向へと顔を向ける。そこには膝を付きながら指をさすガステイルがネカルクを睨めつけていた。そして、
「妖羽化完了……『昏き救済の破壊者』」
「なるほど……三人で足止めをしつつ、最後にお前が一撃で決めるつもりなのね。」
「……ええ、その通り。あんたの心臓を貫くのは私……覚悟はいいかしら?」
いつの間にかガステイルの後方へ移動していたアルエットが、巨大な片翼をバサリと広げながら不敵に笑っていた。