決戦ⅩⅡ フレンヴェルの邂逅
聖剣フレンヴェル・クラウディ――投影魔法に写っていた少年の正体に、アルエット達は驚きを隠せなかった。
「ほ、本当に……聖剣で間違いないの?他人の空似とか……」
「はい。さっきも部屋に入った瞬間に『懐かしい』と呟いていたんで……少なくとも、彼がここにいたことがあるのは間違いないかと思います。」
「……蜘蛛より先に報告すべきことがあったってことよね、それ。」
「うっ……し、仕方ないじゃないですか!私もそう思ったから部屋を探索してたんですよ、そしたら……さっきの蜘蛛と目が合ったんです……」
「と、とにかく、なんとかその聖剣と話ができないかな?もしかしたら魔王の重要な話が聞けるかもしれないし。」
ルーグが場を仲裁し、アムリスにフレンヴェルとの意思疎通を図るべく頼み込む。アムリスはコクリと頷き聖剣を抜くと、目を閉じボソボソと呟いた。
「……導を解いて、聖剣フレンヴェル・クラウディ」
アムリスの言葉と共に聖剣が光に包まれる。三人が腕を目の前にかざしながら目を閉じる。やがて光が収まり三人がゆっくり目を開くと、投影魔法に写っていた少年と瓜二つのエルフがアムリスの前に立っていた。
「やぁ……はじめまして。僕がフレンヴェル・クラウディだよ。」
「ほ、本当にそっくりだ……」
「はは、王女サマ……気持ちは分かるけどまじまじと見つめすぎだね、照れちゃうよ。それに、その紙切れはもう700年も前に作られたものさ。そんなに似てないと思うけどな。」
「なっ……700年……」
四人は700年という時の長さに思わず言葉を失った。アルエットはなんとか体裁を整え、膝を折ってフレンヴェルに目線を合わせて会話を続ける。
「あ、あぁ……すまない。」
「それでさ、何か聞きたいことがあって呼んだんでしょ?早く本題に入ろうよ。」
「そ、そうだな。あー、まあまずは単刀直入に……ここに写っている女……お前の母親は、魔王ネカルク・アルドネアか?」
フレンヴェルは不敵に笑いながら黙って頷く。
「やっぱり、そうなのね……。それで、残ったもう一人が父親と……恐らく、クラウディという姓を持った、武器変化の魔法を専門とする特殊な一族……。」
「あのさ、そんなことはもう分かってることでしょ。もっと違うことを聞きなよ。」
「あ、あぁ、そうだね……」
アルエットはそう言って手を顎に当てて黙りこくってしまう。暫くぶつぶつと独り言を呟くアルエットに割って入るようにガステイルが手を上げ言った。
「あ、じゃあ二つほど……魔王はなぜエルフとの子供を作ったのかな?魔王の立場的にも彼女自身の性格的にも魔族の誰かと子供を作りそうなもんだと思ったからさ。」
「君はどう思ったのかな?」
「武器変化という魔法を身内に取り込むためかなと……もしも軍単位であの魔法が使えるなら戦略的に大きなアドバンテージとなるからね。」
「……残念ながら、当時の武器変化の魔法はそこまで便利じゃなかったんでね。同時に作れる武器は剣数本が限界……それも永遠に残るような代物でもないとなると、一番の理由とは言えないかもね。」
「だったらなんだ……子供に長い寿命を与えるため?いや魔族も十分長寿じゃないか……魔王自身も900年生きていると聞くし。」
「ヒントをあげよう……。発想を逆転するのさ、魔族と子を作らなかったのではなく、何らかの理由で魔族とは子を成せなかった……とね。」
「魔族とは子を成せなかった……?な、何故だ!?」
「それ、二個目の質問ってことでいい?」
フレンヴェルの邪悪さを含めた薄ら笑いに、ガステイルはハッとして口を慌てて噤む。眉を顰め奥歯をギリと鳴らすガステイル。
「いや、なんとか考えてみせるさ……。それじゃ……次が正真正銘二つ目の質問だ。なぜ魔王の息子が聖剣なんだ?普通に考えておかしいだろう。」
「アハッ、そんなの、僕が一番知りたいさ……。いや、質問にはちゃんと答えないとね。体質さ。」
「体質……?アドネリア殿下のやつみたいなやつか?」
「そうだね。厳密に言うと妖精種なんかもそうなんだけどさ。特異体質の魔族の女と秘伝の魔法を扱う特殊なエルフの一族の男の間に生まれた子だ……まともに産まれてくることの方が不思議だったんだよ。」
「その体質って……」
「あぁ、そうだね。そこまで言わないとフェアじゃないね。僕は『魔力を体外に放出できない』特異体質があったのさ。僕はこのせいで武器変化はおろか初級の魔法すら使えなかったのさ。」
「そ、それが聖剣になる理由とどう関係あるんだ!」
フレンヴェルのカミングアウトに、ガステイルは理解が追いつかないといった顔で尋ね返した。フレンヴェルは目を細め、やがて優しく微笑みを返して再び口を開いた。
「そうか……それなら一つ、昔話をしよう。世界に嫌われた一人の女魔族と、運命が嘲笑った一人のエルフの話さ。」
フレンヴェルはそう言って、神妙な面持ちで語り始めた。