決戦Ⅹ 魔王城内部のパーティートーク
魔王城・内部。アルエット達は会敵を警戒しつつ探索しながら階段を上がっていく。二階、三階必要最低限の会話だけで粛々と進む三人にしびれを切らしたルーグは、四階へと進む階段でガステイルに話しかけた。
「そういえば、ガステイル君はどうやってここまで来れたんだ?」
「あぁ……実はあの通信、俺も聞いてたんだよ。その後から今日まで全力で飛ばしてきた。」
「飛ばしてきた……って、エリフィーズから!?よく間に合ったね……。」
「あれ、ルーグは知らないのか?エルフは森だと平地よりも速く動けるんだよ。エルフの魔力と植物系の空間の親和性が高くて、身体強化の魔法の効果が跳ね上がるんだ。」
「そのエルフの特性を考えれば、エリフィーズの森を抜けて人間領に出るより、ジューデスまでに点在する森を伝って行った方が早く着く……だから、ザイリェンには来なかった。そうよね?」
先頭で話を聞いていたアルエットが割って入るようにガステイルに尋ねる。
「はい。殿下の言う通りです。そもそも皆様が出発する正午までにザイリェンに着くのが不可能なのは分かっていたので、目的地は初めからジューデスでした。まぁ、誤算も多く、着いた頃にはデステールも殿下も妖羽化しちゃってて乱入する隙が無かったんですが。」
「アルエット様、もしかして私が教会で通信に失敗したって聞いたときからガステイルが来ているって気付いて……」
「もしそうなら、ザイリェンには来ないとは思っていたわ。だから姿を現したなら問答無用で襲いかかるつもりだった。結果、ガステイルは来なかった……だから、ジューデスで合流できるって確信したわ。」
「ちなみに、ガステイル君の誤算ってなんですか?」
「決まってるじゃないですか、あんなところで兄妹喧嘩してることですよ。デステールが裏切ったことは知っていましたが、魔王城中の魔族殺しまくって片付けてから門の目の前でドンパチ始めるとか思いませんよ普通……」
「ほんっと!いつまで経っても迷惑なんだから!」
アルエットは呆れたように言い放つ。その口調に三人は目を見合わせてぷっと吹き出して笑う。
「なんなのよ。まるで緊張感がないわね……ここって一応、敵地なのよ?」
「いえ……今の態度が、ほんとに兄妹なんだなぁって思いまして。」
「バカなこと言ってる暇があるなら、さっさと先に進むわよ。」
「でも、皮肉な話だと思いますよ……種族の復讐のためだけに生きたのに、もう一人生き残った同族である妹に殺され、しかも最後は自分の力を込めた刀で斬られるって……」
「あの男は罪のない者を殺しすぎた……人も魔族もね。お母様はともかくとしてもグレニアドールやフォーゲルシュタットの市民たちに魔王城の魔族たち……気にする必要はないわ。」
アルエットは階段を昇る足を止め、三人に背を向けたまま地面に向けて吐き捨てるように言った。強く握った拳が小刻みに震えていた。いつもより小さく見えるその背中を見上げ、ルーグ達は言葉を呑み込んだ。アルエットはそのまま暫く立ち止まっていたが、やがて首だけ三人の方へ振り向きながら、
「そろそろ、行きましょう……魔王はもう近いわ。」
そう言って階段を昇り、魔王城四階へと飛び込んだ。長い回廊が伸びており、両側にほぼ等間隔で扉がついている。四人は手分けして探索することにし、それぞれが扉に手をかけた。アルエットとルーグが選んだ部屋は下の階で見てきた部屋と遜色ない部屋で、10分ほどで目を通しすぐに廊下へと出ていった。合流した二人は目を合わせ頷くと、ガステイルの入った部屋へと向かった。
「なっ、これは……」
アルエットは部屋の景色に圧倒され、息を呑んだ。そこには巨大な書庫が広がっており、見上げるほど大きな書棚が見渡す限りに連なっていた。
「こりゃ、ガステイルを探すのは手間取りそうね……」
「いてっ!」
アルエットが書棚を見上げながら歩いていると、何かを蹴った感覚がした。蹴られたものが声をあげアルエットが恐る恐る足元に目をやると、ガステイルが寝そべって本を読んでいた。
「……何、してんのよ。」
「へへ……ここ、凄いですよ。魔法関連の本ならだいたいなんでも揃ってます。」
「探索は?」
「しましたとも。隅々まで見て回って是非ともお持ち帰りしたい珠玉の魔法書の数々がこちらになります。」
ガステイルの話を聞いたアルエットは、彼の腹部に当たっているつま先に少しずつ力を加えていく。ぐりぐりとねじり込むように押し付け、ガステイルが悲鳴をあげていく。
「いでででででで!!」
「あんたねぇ……何しにここまで来たと思ってるのよ。」
「ちょ、ちょっとふざけただけじゃないですか!ちゃんと魔王に関係してそうな本もまとめてますから、ほらぁ!」
ガステイルは涙目になりながらそう訴えると、奥の本棚の裏から数冊の本を取り出しアルエットに差し出した。他と比べて明らかに読み込まれているその本を手に取り、アルエットは呟いた。
「『水鏡術の極み』、『クラウディの血統』……こっちは『竜族の戦争と妖精種の呪い』……どれも、かなり劣化している本ね。」
「はい……明らかに他とは読まれた回数が違う本です。恐らく、魔王と何か関係深いことが書かれているかと。」
アルエットはごくりと息をのみ、まず『水鏡術の極み』を読むべく表紙に触れる。その瞬間、
「うわぁ!!」
隣の部屋からアムリスの声が響いた。三人はすぐに本を足元に置き、部屋を飛び出しアムリスの元へと向かっていった。