決戦Ⅵ VSデステール③
アルエットは凄まじい速さで間合いを詰めると、雄叫びを上げながら鋭い爪を振り下ろした。デステールは最小限の動きで爪の一撃を回避する。アルエットも負けじとデステールへ追撃を試みるが、デステールは舞のステップを踏むように軽やかに連撃を避け続ける。
やがてアルエットは避けられ続ける怒りに任せて無造作に右手を突き出した。しかしデステールはいとも容易く左手で爪を受け止めると、
「アルエット、雑だねぇ」
そう言って、アルエットの顔面を右手の甲で殴打する。
「ぐぅっ」
怯んだアルエットは数歩後ずさり、顔を押さえて悶絶する。アルエットすぐに立ち直りデステールの方へと顔を上げる。しかしそこにデステールの姿はなかった。
「そんな、どこ……」
「アルエット様、上だッ!!」
「御明答……だが、もう間に合うまいッ!!」
ルーグの声に反応したアルエットが思わず上を見る。そこには刀を構え急降下しながら突撃するデステールがいた。迎撃が間に合わず思わず目を瞑るアルエット。しかし、振り下ろされたデステールの刀はアルエットには届かなかった。
「させません!」
割って入ったアムリスが聖剣で刀を受け止める。デステールはアムリスに差し込むべく刀を持つ手にさらに力を込めるが、アムリスが必死に堪え続けた。そこへルーグが駆けつけ、足元から大剣で斬りあげる。デステールはバックステップで間合いを取り、攻撃を避ける。
「アムリスさん!大丈夫ですか!」
「な、なんとか……」
「二人とも、助かったわ。」
デステールはコキコキと指を鳴らした後、ゆっくりと腕を伸ばしアムリスを指さす。
「まずいっ!」
アムリスは慌てて聖剣に力を込めて咄嗟に前方に差し出し、デステールから放たれた結界の斬撃を中和しやり過ごす。デステールは一瞬目を見開き、すぐに大きく笑い刀を構え突撃する。
「ハハッ!そうだ!そうでなくては面白くない!」
「来るッ!」
「3人まとめて相手してやる!せいぜい抗うんだな!」
デステールはそう叫び、アムリスに再び斬りかかる。アムリスとデステールは数度切り結び、互いに一歩も譲らない攻防を繰り広げる。そこへ
「アムリスさん!助太刀します!!」
「私もいくよ!」
デステールの両サイドからルーグとアルエットが挟撃する。デステールはその瞬間、アルエットの方を睨みつけて魔力を展開する。すると、アルエットの足元が地面に張り付いたように動かなくなる。
「んなぁっ!」
「アルエット様!前!!」
前方につんのめり転げてしまったアルエットがルーグの声に応じて顔を上げると、デステールの白い翼が眼前へと迫っていた。凄まじい速度で伸びた片翼が、アルエットを捉える。
「がふっ」
「ちっ、うおおおおお!!」
ルーグは剣を振りかぶり渾身の力を込め、自身に背を向けていたデステールに勢いよく振り下ろす。しかしデステールは左手を刀から離し振り上げると、ルーグの剣をあっさりと受け止める。
「何だと……!」
「ふむ……所詮レプリカのまがい物、本物には及ばんね。」
デステールはそう言って、刀を交えていたアムリスを蹴飛ばした。
「うぐぅっ……」
「アムリスさん!」
「よそ見してる場合かよっ!」
ルーグがアムリスの方へと気を逸らした瞬間、デステールは掴んでいたルーグの大剣を無造作に後方に引くように投げ捨てる。大剣に引っ張られデステールの懐に潜り込むような態勢になるルーグ、その腹部にデステールの膝が迫り突き刺さった。
「うぐお……おああ……」
ルーグは腹を押さえながら数歩よろめき、歯を食いしばり痛みに耐える。デステールは追撃とばかりにルーグの顔めがけて右ストレートを放つ。ルーグはなんとかこれを躱し、側面からデステールの腕をとる。
「う、うおおおおおッ!!!」
「なっ……そんな力、どこから!!」
ルーグはそう叫びながら、デステールに一本背負いを決める。地面に叩きつけられたデステールにルーグはすかさず追撃を仕掛ける。しかしデステールはルーグに向けてピンと指をさすと、弾く結界の斬撃を警戒したルーグは追撃をやめバックステップでデステールから間合いを取る……しかし、ルーグを弾く結界は展開されていなかった。
「……ブラフか、やられたな。」
「いいや、予想外だよ……少しね。本来ならこんな早いタイミングで使うつもりはなかったよ。」
デステールはゆっくりと立ち上がり、砂ぼこりを払いながら言う。その間にルーグの元へアルエット達が集まっていた。
「本当に、3対1でやっと互角くらいなんて……」
「いいや、互角じゃないよ。多分まだまだ力を出し切ってはいないはず……」
「ええ、ルーグの言う通り……だけど、それはこっちも同じ。」
神妙な顔でそう呟くアルエット。ルーグはその言葉の意味を図りかね思わず聞き返してしまう。
「同じって……どういうことですか、アルエット様?」
「そのままの意味、私もまだ100%の力を出し切ってないってことよ。」
「え……?」
「私はここまで……妖羽化の力を全力で使っていないの。理由は二つ。魔王戦まで取っておきたかったからと……この力を使ったあと、自分がどうなるか分からないから。」
「でも、アルエット様の動きが今までよりも劣っているようには見えませんでしたが……」
「それこそが、魔力の慣らしの効果よ。魔族の魔力が私の体に馴染んだことで、今まで100の魔力でしていたことが60くらいでできるようになったの……今からそれを、120まで引き出してみる。」
「まさか、どうなるか分からないって……」
「そう……魔族の血を限界まで活性化させる。そうすればママの魔力の分、100から120に上乗せできるはず。」
「アルエット様……」
「そんな心配した顔をしないでよ。大丈夫、なんとかしてみせるから。それに……今は不思議と、上手くいく自信と魔力が底なしに湧いてきてるのよ。」
アルエットはそう言って二人の前に立つと、目を閉じ精神を集中し始める。徐々に高まっていくアルエットの魔力を遠巻きに見ながら、アルエットと対峙したデステールはニヤリとほくそ笑んでいた。