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決戦Ⅳ VSデステール①

 ジューデス、魔王城前。扉の前で立ち塞がるデステールに対峙するアルエット一行。最初に口を開いたのはアルエットであった。


「どうして、魔王城の魔族たちを殺していったの?」

「だから言っただろう……露払い、だと。」


 デステールはバサリと右手の周りのマントを払い、腰に収めた刀を見せつけるように掴む。


「これから魔王に挑むに辺り、背後から不意打ちでもされたらかなわんからな。後顧の憂いは断っておくに限るさ。」

「そんなこと……そのために敵意のない者達も殺していったというの?あの魔族たちが本当に貴方を背後から襲うとでも思っていたの?」

「かもしれないだろう?襲うと思っていたわけではない……襲わないと確信する材料がないだけで、リスクを処理するには十分な理由さ。」

「やっぱり、貴方とは相容れないわね。」


 アルエットは呆れたように目を瞑り、懐からナイフを取り出し構える。デステールもマントを脱ぎさり刀をスラリと抜き剣先を突きつけるように構える。一触即発の二人、その間に割り込むようにアムリスとルーグが立った。二人は抜いた剣でアルエットを制しながらデステールに告げる。


「デステール!私たちの目的は魔王討伐のはず……だったら先に魔王を倒してからでもいいんじゃないの!?」

「アムリスの言う通りです!アルエット様も……納得はできないかもしれませんが、まずは魔王を倒すことが優先です。今は一人でも強い味方が欲しいんです……兄妹喧嘩はそれからにして貰えませんか?」


 訴えかけるようにデステールを見つめるアムリスを見たデステールは、抜いた刀を鞘に収める。デステールの顔から笑みが消え、ゆっくりと右手を前へ差し出す。その異様な威圧感に、ルーグは言葉よりも先に飛び出していた。


「ちょ、ルーグさん!?」


 ルーグがアムリスの腰に突進し彼女を押し倒す。その瞬間、デステールが水平に右腕を伸ばし切る。ルーグに突き飛ばされたなびいたアムリスの長い髪がバサリと斬り落とされ宙を舞った。


「な……なにこれ……」

「結界のようです……結界を、飛ばした……?」


 立ち上がったルーグが、空間に向かってコンコンとノックする。


「アムリスを弾く結界だ。結界の境界線を対象に重なる座標に設定することで、境界線に沿って身体を引きちぎることができるの。二人もイェーゴで見たでしょう?」


 アルエットが二人に歩み寄りながらそう説明する。手を引かれて立ち上がったアムリスは説明を聞き、みるみるうちに顔が真っ青になっていく。アムリスは慌ててデステールの方へと顔を向ける。デステールはゆっくりと右手を下ろし結界を解除した。


「どうして……」

「言っただろう……邪魔者は殺すと。そこの女が何を勘違いしているか知らんが、僕は人間の味方になったわけでもなるつもりもない。僕は僕自身のために魔王を殺す……お前らと馴れ合うつもりはない。」

「そ、それでも、一緒に戦った方が勝率が上がるはず……」

「足でまといが増えたところで勝率が上がるわけないだろう。」

「なっ、足でまといなんて……」

「まあ、そういうことよ。協力なんて望み薄……私たちかデステールの勝った方が魔王を倒す、単純な話ね。」


 アルエットはそう呟きながら不敵に微笑み、デステールの方へと歩みを進める。デステールは刀を抜きアルエットに斬りかかる。アルエットもナイフで応戦すべくデステールに向かって駆け出した。


「ちっ……やるしかねえのかよ!!」


 二人の撃ち合いを見つめていたルーグは歯を噛み締めながら大剣を抜き、アルエットへ加勢すべく突撃する。アルエットとルーグ二人の猛攻をデステールは高揚した表情で難なく受け流していく。そして返しの太刀で二人に斬りかかる。二人は全てを防ぎきることができずにダメージを受けた。


「うぐっ……」

「二対一でその程度かい?それなら……魔王の前に立たせることはできないねぇ。」

「ちいっ!」


 アルエットはデステールの懐に潜り込み体当たりをかます。まともに受けたデステールは数メートル後ずさる。


「ぬおっ!」

「仕方ない……妖羽化(ヴァンデルン)!!」


 緩んだ間合い、生じた隙。アルエットの覚悟を秘めた瞳がデステールを捉え、絶叫する。アルエットの身体に魔力が連なり繭を作る。デステールとルーグが固唾を飲み見つめる中、魔力の繭が晴れ、昏き救済の破壊者(リリーフデストロイア)が姿を現した。アルエットはゆっくりと目を開きデステールの姿を捉えると、一瞬で間合いを詰め爪で襲いかかる。ルーグは目で追えないその速さに驚きの声をあげる。


「速い……アルエット様!!」


 叫んだルーグが振り向く。アルエットの渾身の一撃は……デステールによっていとも容易く刀で受け止められていた。


「なん……でっ……!?」

妖羽化(ヴァンデルン)でもその程度か。失望だね。」

「ぐああっ!」


 デステールはアルエットを蹴飛ばし、アルエットは地面に転がる。デステールは刀を振りかぶりアルエットに追撃をかける。一振り、さらに横薙ぎに一振りと鋭く襲いかかるデステールの刀をなんとか躱し、再度振り下ろされた刀を白刃取りで受け止める。


「ぐぐぐ……」

「ギギギ……」


 互いに歯を食いしばりながら腕に力を込めるアルエットとデステール。拮抗した力勝負にデステールの刀がガタガタと悲鳴をあげる。それを嫌ったデステールが見せた一瞬の隙にアルエットは、


「う、うおおお!!!」

「なっ!?」


 持っていた刀を持ち上げ、デステールごと投げ飛ばした。アルエットは立ち上がり肩で息をする。受け身をとったデステールもすぐに立ち上がり、表情を崩してアルエットを睨みつけている。


「どうして、ここまでしなきゃならないの……」


 その戦闘を遠巻きに見つめているアムリス。右手に握られた聖剣は、カタカタと切ない音を立て震えていた。

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