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章末閑話5 お転婆兎と人形執事・前編

 150年前、ジューデス。フラーヴ・アルノルディーの私室にてヴォリクス・ジェレミアは目を覚ます。


「ん……ここは?」

「ふむ、起きたかな。」

「だ、誰だ……痛っ!!」


 慌てて起き上がろうとしたヴォリクスに頭痛が走る。フラーヴはやれやれといった様子でため息をつき、ヴォリクスに忠告する。


「今のお前は肉体に魂が定着したばかり。暴れたりするとは感心できんのう。」

「肉体に魂が……って、まるで俺の身体から魂が一度抜けたみたいな言い分じゃないか。どういうことか分かるように説明してくれよ。」

「お前の言う通りじゃ、お前の本来の身体から魂は一度抜けた……つまり、死んだんじゃ。」

「なんだと……!」


 ヴォリクスは慌てて自身の手足や身体を見回す。そしてフラーヴに表立って反論する。


「う、嘘だ!!だったらどうして、俺は今こうして生きているんだ!?」

「ワシが死霊術で蘇生させたんじゃ。たまたま通りがかったところに上質な魂があったからのう……それに、近くに土でできた入れ物もあったからありがたく使わせて貰ったんじゃ。」

「土の人形……それってもしかして、兄さんが……」

「確かに、もう一人瀕死のエルフがいたような気がするのう……」


 フラーヴの言葉に反応し、ヴォリクスは慌てて立ち上がりフラーヴに迫った。


「そ、そいつはどうなったんだ!!教えてくれ!!」

「全く……言葉遣いがなっておらんのう。良いか?お前はワシがいなければ今こうして活動することもできておらんのだ。そのような恩人に対して何かを頼む態度がそれで正しいと思うのか?んん?」

「くっ……分かった。」


 ヴォリクスは歯ぎしりをしながら頭を下げ、フラーヴへ懇願する。


「兄さんがどうなったか……教えてください、お願いします。」

「……まあ、合格としておくか。爛れろ、『反魂招聘(ブルーカーネーション)』」


 フラーヴはそういうと、そばにあった不気味な人形に向けて魔力を込めた。しかし人形からは何の反応もなかった。


「残念だね。お前の兄は生きておる。」

「どういうことですか?」

「『反魂招聘(ブルーカーネーション)』は予め私がマーキングしていた死者の魂を場所を問わず呼び出すことができる魔法でな。これが成功しなかったとなると考えられる可能性は一つ……対象の魂が生きておるってことだ。」

「マーキングって……いつの間にそんなことを。」

「魔力が切れておったからのう。エリフィーズに帰れるくらいの魔力を分けるついでさ……。あわよくば野垂れ死んでおれば使い勝手のいい魂だとも思ったがのう。」


 ヴォリクスは目の前の男に感謝すべきかそうでないか複雑な気持ちを抱く。しかし"兄が生きている"という事実に、ホッと胸を撫で下ろす。フラーヴはそんなヴォリクスを見下ろしながら再び言葉を紡ぐ。


「もう良いか?目が覚めたのならば今後、私のために働いてもらおう。そうじゃのう、お前のその影魔法……いくらでも使いようがある。邪魔者の始末、とかな。」


 ヴォリクスはごくりと固唾を呑んでフラーヴを見つめる。フラーヴはそんなヴォリクスの様子を歯牙にもかけず言葉を続けた。


「今後は私のためにその力を振るってもらうぞ……私のために生き、私のために死ぬがいい。いずれにしろ私が死ねばお前の魔法は解除されるんだ。もはや選択肢はひとつしかなかろう?」

「……ひとつだけ、確認してもいいか?」

「兄のことか?」

「ああ。別に俺は貴方の道具となることは厭わない。だが、兄との再会を果たすため行方を追うことを許可して欲しい。それ以外は貴方の言葉通り、働くことを誓う。」


 ヴォリクスは真剣な眼差しでフラーヴを見つめる。フラーヴは心底面白くないといった表情でため息をつき、ヴォリクスに背を向けながら口を開いた。


「くだらん……そんなこと、私のためになると思えば黙認するし、無駄だと思えば止めるだけだ。じゃが……そうじゃのう、100年ほど経てば私の気も変わるかもしれん。その気まぐれがどうなるかは100年後のお前次第……そうじゃろう?」

「……分かりました。このヴォリクス、命懸けで卿に仕える所存でございます。」

「まあ、せいぜい頑張ってくれたまえ……」


 こうして、ヴォリクスはフラーヴの懐刀として暗躍する。この時既に四天王筆頭として数多の権力を手中に収めていたフラーヴであったが、ヴォリクスを用いることで自身に恨みがある者、自身の権力の対抗勢力となる者、果ては彼が少しでも気に入らないと思った者を秘密裏に処断していったのであった……彼と同じく四天王の地位にありながら、フラーヴとは天と地ほどの実力差がある二人の魔族を除いて。


 フラーヴがヴォリクスを拾って100年余りが過ぎた。荒れた様子で帰宅したフラーヴをヴォリクスが出迎える。フラーヴはヴォリクスを無視し大股で居間へと入り、勢いよく近くの椅子を蹴り上げる。


「クソッ!!デステールの小僧め……たかが200歳ちょっとの若造が私に意見なんぞしおって!!」

「デステール様……ですか。よろしければ俺が始末しましょうか?」

「……いいや、今のお前じゃ無理な話だ。それに彼奴は魔王様のお気に入りじゃ、失敗して足がつこうものなら私の立場が一気に危うくなる。彼奴の周りで事を起こすなら慎重過ぎるくらいがちょうど良い。」

「左様ですね……出過ぎたマネでした。」

「そうじゃ。お前は私の命令にだけ従っておけば良いのじゃ。今はお前の出番などない……いや、待てよ!」


 そう言ったフラーヴはニヤリと悪い笑みを浮かべ、ヴォリクスに向きなおり語りかける。


「のう、ヴォリクスよ……やはりお前の出番のようじゃ。」

「はっ、なんなりと。」

「標的は若い女の魔族じゃ。最近頭角を現してきおったやつでの、次期四天王候補と目されておる。どうやらデステールも目をかけておると専らの噂でな……若い芽を摘む方が先決じゃと、思わんかね?」

「俺は何も言いませんよ。卿に従うまででございます。」

「なんじゃ……面白くないよのう。まあいい。そいつの名はラムディア・ストームヴェルンという。最近は魔族領の西の方で任務をしていると聞く。殺してこい。」

「……了解です。吉報をお待ちください。」


 ヴォリクスはそう言うとフラーヴに背を向け屋敷を後にする。


(可哀想になぁ……こんなくだらない因縁をつけられて殺されるなんてな。)


 ヴォリクスはそんなことを考えながら一度立ち止まり、眉を顰める。やがて頬をパンパンと叩き、決意を固めて西へと向かった。

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