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彷徨ⅩⅩ 嵐の前の静かな会議

 ザイリェンの街、大きな宿のベッドの上でアルエットは寝転んで天井のシミを数えている。アドネリアと別れてからもう五日が過ぎようとしていた。


「思えば、倒すべき敵ももう数少なくなってきたな……。」


 アルエットはそう独り言ちながら一つ欠伸をし身体を伸ばす。ケイレスの出来事があってから二日、アルエットはつかの間の休息を享受していた。すると、誰かが部屋をノックする音が響いた。


「?どうぞ。」


 アルエットは身体を起こし扉の外の人物に入室を促す。それから一呼吸の間を置き、ガチャリと音を立て扉が開く。修道服を来た男達が数人、そこに立っていた。先頭に立っているリーダーらしき男が、一礼しながら口を開く。


「アルエット殿下、失礼致します。アタラクシア及びアドネリア殿下の使いでございます。」

「アタラクシアから……これだけの人数が動いて、大丈夫なのかい?」

「ああいえ、アタラクシアから参ったのは私一人です。他の者はザイリェン担当の修道士達です。」


 男は訂正しながらアルエットが見やすいように半身にしながら端へと動く。10人近い修道士がアルエットに向かって跪いている。


「なるほど……あんたはともかく、ザイリェンの修道士とやらは何の用だい?話がまだ見えてこないんだけど。」

「そうですね……それを説明するためにも殿下、今からザイリェンの教会までご同行願いませんか?」


 男は大袈裟なまでに恭しくアルエットへと傅く。アルエットはそんな男の魂胆を探るように見つめながら呟いた。


「ここじゃできない話、ねぇ……誰かに聞かれて困るようなことでもあるのかい?」

「いえ、そのような者には心当たりがありませんが……。」

「え?」

「ジューデス突入についてですよ。アドネリア殿下直々にお話したいことがあるようなので、情報伝達の魔道具がある教会までアルエット殿下にも来ていただこうかと。」

「ふ、ふーん。あら、そう……まあ、そうよねぇ。そっちの方が効率いいもんねぇ……。」

「……」


 アルエットの目が泳ぐ。修道士達は誤魔化すアルエットをただまっすぐに見つめる。その視線を集めたアルエットの顔がみるみる赤くなっていく。そして、


「着替えるから、出て行きなさいよ!!」


 と叫び、無理やり部屋から修道士達を押し出すと、バタンと勢いよく部屋の扉を閉めた。



 ザイリェンの街道、宿屋から教会へと続く道にて、アルエットと修道士一行は話をしながら歩いていた。


「今回の未来視に不可解なところがある……?」

「はい。アドネリア殿下はそう仰っていました。」

「へぇ……そんなことがあるんだ。」


 アルエットはそう言うと、じっくりと考え込む素振りを見せる。修道士の男はアルエットに再び尋ねる。


「アルエット殿下、何か心当たりはございますか?」

「心当たりというか……そもそも私、あの魔法のことそこまで分かってないのよね。」

「まあ確かに、私も説明を聞いても全く理解できませんでした。20歳にも満たない子があんな魔法を使いこなすとは、凄まじい才能ですね。」

「そうなのよねぇ。だからアレに関して、アドネリアに分からないことが私に分かるわけがないわ。」

「なるほど……」


 その後、男とアルエットは他愛ない世間話を続け、やがて大きな教会の前に到着した。


「着きました。ここがザイリェンの教会です。」

「礼を言うわ。あまりアドネリア達を待たせるわけにもいかないし、早速その情報伝達の魔道具とやらを見せていただこうじゃない。」

「そうですね。では中に……こちらです、殿下。」


 ひんやりとした空気が包む教会内部、その奥のステンドグラスの下に地下へと続く階段があった。カツカツと修道士達に連れられながら階段を降りていくアルエット。


「結構降りるのね……」

「ええ。浅すぎると地表面の些細な変化で接続が切れてしまいますので。深すぎても問題ですが。」

「深すぎると?」

「封印されている竜族の刺激になってしまいますから……」

「ああ、なるほどね。」


 そのような会話を挟みつつ、アルエット達は地下室へと辿り着いた。部屋の八割を埋め尽くす大仰な装置に、アルエットは目を見開き圧倒されていた。


「これが……」

「はい、情報伝達の魔道具です。今から起動しますので、殿下はこちらに座ってお待ちください。」


 男はそう言うと修道士に合図を出し、装置の前に備え付けられた椅子にアルエットを促す。アルエットは言われるがまま椅子に座り、慌ただしく動いている男たちを緊張した面持ちで見つめていた。


「殿下、いきますよ!」

「あ、ああ!」


 男の掛け声と共に配置についた修道士達が魔力を込めて魔道具を起動する。アルエットの眼前の黒い板のような装置に映像魔法が展開し、そこへ三人の顔が映し出された。


「おはようございます姉上様。」

「お嬢!!」

「アルちゃん!久しぶり!!!」


 アドネリア、ルーグ、ヴェトラの三名が口々にアルエットに語りかける。アルエットはその様子に困惑を隠せない様子で、


「うげぇ!なんであんた達がアドネリアと一緒にいるのよ!!」


 と言う。三人が目を丸くしキョトンとアルエットを見つめる中、修道士のリーダー格の男がアルエットの隣で耳打ちする。


「殿下、皆様はそれぞれ別の場所にいらっしゃいます。」

「ええ?さ、三箇所も繋がっているの!?」

「正確にはここも入れて四箇所ですね。もちろんもっと多くの場所でも問題なく繋がります。今はアタラクシアの本部、エリフィーズ近郊の森の地下、オルデア、そしてここのザイリェンですが、人間領で教会がある都市ならどこでもいつでも繋がります。」

「へぇ……」


 アルエットは教会の技術に感嘆し、目を丸くしながら息を漏らす。そんな中、アドネリアが咳払いをして全員の注目を促した。


「さて、全員集まったので早速本題に入りますが、よろしいでしょうか?」


 アドネリアの声が響く。残りの三人は息をのみ頷いた。アドネリアの発する一字一句への緊張が高まっていく。アドネリアが改まり発したその第一声は……謝罪であった。


「皆様には、謝らなければなりません……。本当に申し訳ございませんでした。」

「え……?どういうこと?」


 アドネリアが頭を下げる。その様子とは裏腹にアルエットの緊張感は増していった。

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