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彷徨ⅩⅠ ケイレス来訪

 グレニアドールの少し東、シイナにもらった地図と睨みあいながらアルエットはケイレス跡地に向かって街道を歩いていた。コレット山を出て数日が経ち、アルエットは水を口に含みながらゆっくり歩いていった。


「……ザイリェンから結構歩いたけど、ケイレスって一体どこなのよ!」


 アルエットはケイレス跡地付近の国境の街ザイリェンに大荷物を置いてケイレスを探していた。だが数時間ほど周囲を散策しても、跡地の形跡すら見当たらなかった。最低限用意していた水と食糧が残り3分の2ほどになろうとしていた。


(だけど、そろそろ見つからないのなら一旦引き返して明日また探すなりしないといけないわね……)


 アルエットがそう言って踵を返そうとする。その時、アルエットの目の端にチカッと光ったものが見えた。アルエットは目を凝らしその方角をじっと見つめると、そこには崩れかかったアーチのようなものと荒廃した杭のようなものが見えた。


「まさか、あそこか!」


 アルエットはそう言うと、その目印めがけて一気に走り出した。1km弱を長駆し、村の手前でブレーキをかける。苔むし崩れかかったアーチをアルエットはまじまじと見つめていた。


「240年が経っていた割には、思ったより損傷が激しくないわね。」


 そんなことを呟きながら街の外周の設備を見て回るアルエット。すると突然、


「それはですねぇ、お父様が最近まで定期的に訪れていたからですよぉ。」


 とアルエットの背後から声が響く。アルエットは慌てて臨戦態勢を取りながら振り向くが、そこに居たのは見知った顔であった。


「……クニシロ?どうして貴女がここに?」

「私はもともと、このケイレスの案内人としてアルエット様に接近するようにお父様に言われてたんですよぉ。お父様の計画が上手くいっていれば、領主の家から帰ってきたアルエット様を連れてここに来る予定だったんですぅ。ですがぁ、二つほど誤算があってぇ……」

「一つは、私たちがフォーゲルシュタットまで行ってしまったことだよね……もうひとつは?」

「はい。アルエット様の仰る通り皆様がグレニアドールから出てしまったことが一つ目ですぅ。もうひとつは……あの屋敷を掃除している時に、人間たちが私たち人型結界刻印装置を破壊する計画を立てていることを聞いてしまったのです。」

「なんだって!?」


 アルエットは驚き大きな声で叫ぶ。


「信じられない!並の人間にあれがどうにかできるわけ……」

「声の主は、ラルカンバラと名乗っておりました。」

「あいつか……」

「私には戦闘能力はありません。そして、何よりもお父様に命じられた任務がありました。ですから私はとにかく街から逃げました……同胞も、皆様も見捨てて。」


 クニシロはスカートの裾を掴み、唇を噛み締めながら語る。アルエットはクニシロを下からぎゅっと抱き締めた。そのまま背中をポンポンと軽く叩きながらクニシロに語りかける。


「クニシロ……よく頑張ったね。ありがとうね、私と……お兄ちゃんのために。」

「いいえ、私は救えなかったんです……人型結界刻印装置はお互いの破損状況を共有しています。逃げながら仲間の破壊通知が脳内で鳴り続けていました。ミシロも、他のみんなも……あの街にいた人型結界刻印装置は皆破壊されました。」

「そう……ちょっと、休もうか。」


 アルエットはそう言い、クニシロと共に床に座る。荷物を漁り持ってきた食糧を取り出すと、クニシロに少し分け与えた。


「アルエット様、これは……?」

「ご飯だよ。少しでも気分転換になるかなって。」

「……お気遣い感謝致します。ですが私たちには食事は必要ないのです。」

「あら、そうなのね。」


 アルエットはクニシロに渡そうとした分の食糧をしまい、残りの食糧を自身の口へと放り込む。張り詰めた空気が少し緩み、クニシロの表情も柔らかくなった。頃合を見てアルエットは再び口を開いた。


「どうして、おに……デステールはクニシロをケイレスに送ったんだろう?クニシロは何か知ってる?」

「恐らく、私の得意な結界魔法が必要だからだと思いますぅ。」

「え、アンタ結界魔法が使えるの!?」

「はい。人型結界刻印装置はみんな得意な結界魔法があるんですよぉ。シイナなら対象を閉じ込める結界、ミシロなら対象を弾く結界……といった風な感じですぅ。」

「なるほど……ミシロのあの斬撃のような魔法は、そういう仕組みだったんだね。」

「彼女の結界は境界線を対象そのものに設定することで、結界の外側の部分だけが弾かれるようにして身体をちぎっていますからねぇ。まあでも、ミシロ自身がかなり大雑把な性格をしていたので一人だとなかなか当たらなくて苦労したそうですぅ。」

「だから、シイナの閉じ込める結界で身動きを封じて当てるというコンビプレーをしていたんだね。」

「その通りですぅ。逆にシイナはとても繊細で真面目な性格なので、対象の輪郭に沿うような緻密な結界を張ることができます。相手が動けないと錯覚する結界はそういう仕組みですねぇ。」

「なるほどね……それじゃ、クニシロの得意な結界っていうのは?」

「うーん、口で言うのもなんですし、一回やってみますねぇ。」


 クニシロはそう言って立ち上がると、村の入り口に手をかざす。そのまま魔力を手のひらに集中させ、呪文をブツブツと唱えると、ケイレス村跡地に結界が展開された。中にはなんと、壊されたはずの建物や殺されたはずのセイレーン達が歩いている様子が見られた。アルエットはその様子に驚きを隠せず、興奮しながらクニシロの方へと向く。


「す、すごいじゃないか!クニシロ!!」

「ありがとうございます。これが私の得意な結界魔法……その地の記憶を再現する映像結界です。それで……243年前、アルエット様が産まれた日のケイレス村の映像を再生しています。」

「私の……産まれた日……」

「アルエット様、中で見てみましょう。」


 クニシロに促されるまま、アルエットは少し躊躇いながらも村の中へと入っていった。

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