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彷徨Ⅶ エリフィーズの再会

 ラムディアによるウインドールの襲撃があった頃、ガステイルはエリフィーズに戻っていた。かつての盗賊団の襲撃で大部分が焼けた精霊樹の内部・謁見の間にて、族長ヴェトラ・エルフィードと面会していたのである。精霊樹の魔法を使った反動によりかつての若々しさを失ってしまったヴェトラに、恭しく頭を下げるガステイル。その姿にヴェトラはゆっくりと口を開く。


「長旅ご苦労だったね、ガステイル。」

「ええ……はい。ありがとうございます、族長様。」

「今日は一人かい?アルちゃん達は別行動かな。」

「はい……少し皆のダメージが大きくて、アドネリア殿下の命でリフレッシュせよと。」

「アドネリア……?殿下と呼ぶ辺り、それなりの立場の者みたいだが……ヴェクトリア女王はどうしたのだ?」


 ガステイルの口から聞きなれない名が飛び出し、ヴェトラがそれを尋ねた。ガステイルはヴェクトリア女王の最期を思い出し、その質問に思わず眉を顰めてしまう。暫し唇を噛み締め無言を貫くガステイルだったが、ゆっくりと口を開きヴェトラに告げる。


「人間の女王ヴェクトリア・フォーゲル様は……崩御されました。」

「何っ……」


 ヴェトラはあまりの衝撃に慌てて玉座から立ち上がり、どたどたとガステイルの元へと近付き言った。


「ガステイル……詳しく教えてくれ、王都で何があったのか……。」

「はい。」


 ガステイルは王都陥落の様子を仔細に語った。王都侵攻の指揮を執ったデステールと女王の確執、女王の処刑、乱入してきた魔王の圧倒的な戦闘力、そして……アルエット・フォーゲルの出生の秘密。

 ガステイルが語り終えると、ヴェトラは衝撃に目を大きく見開き、よろよろと後退しながら再び玉座へと座る。玉座の肘置きに腕を乗せ、そのまま頭を抱えながら暫く考えるような素振りをしていた。


「……以上が、フォーゲルシュタット滅亡の顛末です。」

「ああ、ありがとう……ガステイル。」

「族長様……、気分を悪くされたならば、申し訳ございません。」

「……フォーゲルシュタットの応援要請は2日前ほどに来た。そうか……間に合わなかったか。」


 ヴェトラはやりきれない様子で目を瞑り、顔を俯かせる。しかしすぐに言葉を続けた。


「デステールに魔王ネカルク……なるほど、リフレッシュの意味も、君が何故ここに戻ってきたかも分かったよ。」

「……!!」

「自分たちが全く歯が立たないデステールをいとも容易く圧倒した魔王ネカルク……。それを目の当たりにしたお主だけが、そのあまりの壁の高さに心が折れてしまった……どうじゃ?」


 ガステイルはヴェトラの言葉に対しハッと息を呑む。それがヴェトラの言葉の正しさを立証していた。ガステイルは両手をつき拳を固く握り締めながら、声を震わせてヴェトラに打ち明ける。


「……族長様のおっしゃる通りです。俺はもう、魔王が怖くて堪らないんです。あんなリンチを目の前で見てしまったら、俺たちの存在がいかにちっぽけか思い知ってしまうに決まってます。正直、俺はこれ以上旅を続けていける自信がありません……。」

「そうか……。ガステイルの気持ちは分かった。元より君に無理をさせるようなつもりは無いのだ、気が済むまでゆっくりしなさい。」

「族長様、すみません……!!」


 ガステイルは頭を上げないまま、ヴェトラに謝罪する。ぽたぽたと部屋の床に涙が滴る。歯を食いしばりながら嗚咽を堪えるガステイルに、ヴェトラは優しく微笑みながら言った。


「今のガステイルは肉体の傷よりも深刻な心の傷を負っているんだ。今は使命を全て忘れて、エリフィーズでゆっくり休むといい。」

「……はい。」

「ああ!そうだった!お主に客人が来ておるんだった。ゼーレンの道場に通しているから、落ち着いたら顔を出してやりなさい。」

「い、いえ、それくらいならすぐに行きます!」


 ガステイルは涙を拭き慌てて立ち上がり言った。そして頭を深々と下げ、


「族長様……情けない姿をお見せしました。あと、いろいろ聞いてくださって、ありがとうございました。」


 と言い、精霊樹の裏口に向かって早歩きで歩き始めた。ヴェトラはガステイルを笑顔で見送り、エリフィーズの街をじっと見つめていた。結界を失った街は以前にも増して賑やかになっているようにも見えた。ヴェトラはそのまま玉座の奥の自室へと入っていった。



 ゼーレンの道場に到着したガステイルは、小屋の扉をコンコンとノックした。ガチャリと扉が開き、ゼーレンが中から姿を現す。


「ガステイルちゃん!?」

「ゼーレン様、ご無沙汰しています。」

「……とりあえず、上がりなさい。」


 ガステイルを促し小屋の中に入れるゼーレン。ガステイルは一礼し靴を脱ぎ玄関に上がる。長い廊下を進みながらゼーレンはガステイルに話しかけた。


「ガステイルちゃん、少し痩せたかしら?」

「え……?いや、食事はきちんとしているはずなので、そんなことは……。」

「……そう。」

「ところで、俺への客人って一体誰なんです?」

「道場の広間に通してあるわ。貴方なら見ればわかるはずよ。」


 そんなことを話しながらついに広間の前へと辿り着いた二人。ゼーレンが扉に手を掛け勢いよく開いた。その瞬間、中にいた人物にガステイルは驚き、一歩後ずさってしまう。


「やあ、兄さん」

「ヴォリクス……!」


 広間の中央に佇んでいた客人とは、ガステイルの生き別れた弟――ヴォリクス・ジェレミアであった。

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