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亡国ⅩⅩⅧ 復讐の代償、そして裏切りの代償

 時は戻り王都陥落直後、アルエット達と交戦し魔王の乱入からなんとか逃げ出したデステールは、グレニアドール付近をふらふらと進んでいた。


「くっ……咄嗟だったから座標が少しズレたか……。だが、グレニアドールに帰りさえすれば……。」


 身体を引きずりながら森を抜け、街道を進んでいくデステール。日が傾き始めたころにようやくグレニアドールの城門を発見し、力を振り絞ってなんとか辿り着くことに成功した。人間の門番二人がデステールの姿を見留めると同時に大きな声で叫ぶ。


「あ、あなた様は!!」

「デステールだ……早くここを開けてくれ……」


 しかし、次の門番の言葉は、デステールの思いもよらない内容であった。


「全員、出てきてこいつを取り囲め!!私は領主様を呼びに行く!!」

「なっ……!何をする!?まさに今、領主のデステール・グリードが戻ってきたところではないか!!」

「魔族が何を言う!ここは人間領グレニアドール……領主はエンデル・ノヴァ様だ!!」

「エンデル……嘘だろ……?」


 グレニアドールは魔族と人間の共存を掲げるその理念から、魔族と人間でそれぞれ領主を選ぶという特殊な文化を形成していた。もっとも、デステールが支配するまでは人間と魔族が奪い合っていた都市であったためそんなことをしている余裕はなかったのだが、デステールにより安定した支配がもたらされた結果、人間と魔族が互いに監視し合う体制が必要になり前領主であるノヴァ一族を呼び戻し再び領主に据えたのである。

 以降人間の領主はノヴァ一族が世襲しており、現グレニアドール領主エンデル・ノヴァも当然一族の直系の嫡子である。デステールは彼が産まれたころから殊更に可愛がっており、前領主であるエンデルの父親から直々に後事を託されるほどの間柄であった。

 あまりのショックに、デステールは理解を拒んだ。そのうちに先の兵士がエンデルを連れ戻してくると、エンデルは開口一番、


「ざまあないな、デステール・グリード様ともあろう者が。」


 とデステールを見下しながら言った。孫同然に可愛がっていたエンデルの初めて見る表情に、茫然自失とし、膝からゆっくりと崩れ落ちた。エンデルはデステールを囲む兵たちを城内へ下げ、一層見下した態度でデステールを見つめて言った。


「あんたが留守の間に邪魔な魔族どもを始末させてもらったよ。まあ、オルデアから来たとかいう旅人にも手伝ってもらったが。」

「何を言ってる……ここは、グレニアドールは人魔共存の街だって……」

「おいおい、これは俺たち人間の総意なんだ。人魔共存なんて言ってるの、あんただけなんだよ。」

「だ、だいたいアラート結界はどうした!?そんなことをすれば人型結界刻印装置が黙ってないだろう!!」

「ああ、それね……確かに一番邪魔な存在だったよ。だから、ほら。」


 エンデルはずっと後ろで隠していた右手で持っていたものをデステールに向けて投げ捨てる。ごろごろと転がりデステールの目の前で止まったそれは……ミシロの生首だった。光のない大きな瞳からは一筋の涙の跡が描かれ、もぎ取られていた首の接合部分では血管代わりの電線がバチバチと音を立てていた。


「ミシロ……?」


 デステールは深く絶望し、なんとかその三音を紡ぐのが精一杯であった。その様子を見て、エンデルは下品に笑っていた。


「ギャハハハハッ!!こりゃ、他の機械どもは壊すのを後回しにしてコイツの目の前で殺っちまえばよかったな!!」

「お前は……」

「ああでも、シイナがいなかったのが残念だったな。ありゃ俺の好みのタイプだったからなぁ!壊すにゃもったいねえから四肢だけ落として俺の物にしてやりたかったぜ!」

「お前たち、人間共は……何度家族を奪えば!気が済むんだッ!!!」


 デステールが叫ぶと同時に、魔力が渦巻き身体を包んでいく。大きな白い翼がバサリと音を立て、デステールの妖羽化(ヴァンデルン)、『定式化する白き絶望(デウスエクスマキナ)』が顕現する。


「ちょ、妖羽化(ヴァンデルン)!?いやいや、冗談じゃないかデステール。ゆ、許してくれよ。」


 エンデルはその姿にすっかり腰を抜かし、デステールに許しを乞う。しかしデステールは彼を睨みつけるだけで何も言わなかった。


「ひ、ひいい!!い、命だけは……」

「……貴様らなんぞ、殺す価値もない。」


 デステールはそう言うと、エンデルを無視し城門まで超スピードで進み、城門に触れる。やがてデステールはゆっくり手を下ろすと、グレニアドールに背を向け歩きだす。その背中に向かって、エンデルは怯えきった様子で言葉を続ける。


「な、何をしたんですか……?」

「結界の書き換えだ。まず街の防御結界の効果を強化し、生きている物の出入りを完全に封じた。」

「な、なんてことを!それじゃ俺も街に入れないじゃないか!!」

「最後まで聞け。もう一つ書き換えている……それを聞けば、間違ってもこの街に入りたいだなんて思わなくなる。」

「は……?」

「アラート結界の効果に自壊効果を付け加えた。その効果は『結界内部の生物の魂を生存状態のまま剥がし、肉体を蒸発させる』というものだ……そして、同時にその結界を破壊した。」

「そ、それがなんだっていうんだ!た、大したことないだろう!!」

「大したことない……?生存状態のまま肉体を失い、アンデッドになることも死ぬことも許されず、生存状態だからこの街から出ることも叶わず、永久にこの街の中でふよふよと漂う存在に成り下がることが、大したことないと。」


 デステールは鬼の形相で淡々と言い放つ。エンデルは真っ青になりながら腰を抜かしている。


「それじゃあ、せいぜい頑張ってくれたまえ……グレニアドールの領主様よ。お望みどおり、僕は二度とこの街に近付くつもりはないから。」


 デステールはエンデルに背を向けたままそう告げると、魔族領の奥深くへと去っていく。


(そういえば、アルエットとグレニアドールで何かする予定だったな……何するつもりだったんだっけ。今となってはどうでもいいけど。)


 そんなことをふと考えながら、妖羽化(ヴァンデルン)のままデステールは奥へ奥へと進んでいった。

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