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亡国ⅩⅩⅣ 夜②〜微かな希望

 アドネリアを保護した教皇デミス率いる正教兵はやがて森を抜け開けた草原に出た。一先ず追手を振り切り開けた場所に出た一行にデミスが号令する。


「魔族の追手共は撒いた。とりあえずすぐに襲われるということは無いだろう!たとえ襲われたとしてもこの開けた視界の平野ならすぐに対応できる!よって総員、直ちに野営の準備をせよ!!」

「「「ハッ!!」」」


 正教兵たちは大きく返事をすると、凄まじい勢いでテントを立てるなど野営地の建設を始めた。デミスは真っ先に作られた一際大きなテントを指しながら


「アドネリア様はこちらへ……お互い、聞きたいことが山積しているでしょう。」


 とアドネリアを促す。アドネリアもそれに従い、二人はテントの中へ入っていった。

 テント内部、教皇デミスは先にテーブルに向かい、向かい合った2つの椅子のうち片方へと腰掛ける。そしてデミスはもう片方の椅子へ座るようにとアドネリアへ目線で合図を送った。


「教皇聖下、私のようないち王女に過ぎぬ者が聖下と対等な位置を戴くなど……」

「何を言っておる……もういち王女などではなかろう?ヴェクトリア・フォーゲルの嫡子、アドネリア・フォーゲルよ。」


 デミスの反論に、アドネリアはハッと息を呑む。そして少し躊躇いながらデミスの向かいの椅子に座った。


「やはり、ヴェクトリアは死んだのか……。」

「私も直接見たわけではないですが、徐々に強くなる敵の追手や魔族の会話から類推するに……フォーゲルシュタットは落ち、母上は敵に処断されたと考える方が自然でしょう。」

「なるほどのう……」

「それよりも、民たちが心配です。魔族の本隊の追手が私に追いついてしまっているのであれば、それまでの道中にいたはずの民は……」

「それならば心配はいらん。我々は隊を二つに分けてここまで来ておる。もうひとつの部隊はフォーゲルシュタットの住民を保護するためにこの隊よりも先に向かっておったのじゃ。まもなく我々とも合流できるはずじゃのう。」

「……それならば、安心です。」


 アドネリアはそういうと、ホッと胸を撫で下ろす。そして彼女は助けられたときから不思議に感じていたあることをデミスに尋ねた。


「教皇聖下……不躾なことをお聞きしますが、貴方は今回の魔族による侵攻をご存知だったのでしょうか。」

「……というと?」

「アタラクシアからフォーゲルシュタットまでこれほどの軍を動かそうとなると、徴兵と行軍1日ずつで最低2日はかかるはずです。さらにフォーゲルシュタットからの援軍要請の使者の移動時間も考えれば、当日のうちに私たちと合流するのは不可能だと存じますが。」

「なるほどなるほど……」


 アドネリアの指摘に髭をポリポリと掻きながら考える素振りを見せるデミス。アドネリアはデミスを警戒の眼差しで真っ直ぐ見つめていた。するとデミスは優しく微笑み、口を開いた。


「結論から言うと、"魔族の大軍勢がどこかへと進軍している"ことまでは知っておった。三日ほど前にのう。」

「……なるほど。それはどのようにして知り得たのでしょうか。」

「正教が各地に修道士達を派遣しているのは知っておろう。実は正教に超高速の情報伝達を可能にする魔道具があってのう、各地の修道士達に持たせておったのじゃ。それで三日ほど前、オルデア付近を通った軍勢を修道士達が報告してくれたのじゃ。」

「それでは、その時に軍を向かわせてくれれば……」

「いや、あくまで分かったのは"魔族の大軍がどこかへ向かっている"ことだけじゃ……目的地までは分からんかったよ。フォーゲルシュタットか、アタラクシアか、はたまた別の地方都市か……じゃから、迂闊に兵は動かせなかった。」

「そんな……」

「だが、いつでも兵を動かせるように準備だけはしていた……じゃから、兵の準備のうちの一日は削れるのう。」

「でも、ブラックさんの命令でアタラクシアに使者が向かったのが今日の夜明け前、私が王都を出たくらいの時間だから……そこからじゃどんなに急いでも使者が到着するのはお昼頃になるはずよ。」

「ふむ……?」


 アドネリアの言葉にデミスは不思議な顔をし首を傾げる。そしてその後に続く言葉に、アドネリアは言葉を失った。


「我々に援軍要請を頼んだ使者は、明け方にはこちらの関所に着いておったぞ。しかも、ブラックという者の使者じゃなく、アルエット殿下の使者じゃった。」

「姉上様の!?」

「ああ。みすぼらしい身なりで"フォーゲルシュタットが大変なんだ!!"としか言わないから最初は半信半疑だったんじゃ。じゃから門前払いをし帰らせようとしたんだが、突如そいつは懐からこんなものを取り出してな。」


 デミスは一枚の手紙を取り出し、アドネリアに渡した。そこには……"ルーグへ、ガニオの代表といろいろ話をしてくる。君の方でも何か分かったら戻ってから共有して欲しい"と書かれており、右下にはフォーゲルの印が捺されていた。アドネリアはそれをまじまじと見つめ、感嘆の息を漏らす。


「間違いなく、姉上様の文字です。ルーグというのも、姉上様の護衛の名前。そして何より、フォーゲルの印にきちんと魔力が通っている……本物ですね。」

「ワシも以前アルエット殿下から直筆の手紙を貰っておるからな……すぐにこの手紙が本物だと分かったのじゃ。我々は直ちにフォーゲルシュタットへ出発したよ……日が明けてすぐ、な。そこからは強行軍じゃ。道なき道を進み、休むことなく走り続けた。とにかく、アドネリア殿だけでも助かってよかったわい……ん?」


 デミスが言葉を止め、俯いているアドネリアの顔を覗き込む。アドネリアはぼろぼろと涙を零していた。


「姉上様、ありがとう……!姉上様のおかげで私は……私だけでもなんとか生き延びることができました……!!」


 デミスは苦笑いし、大きな手でアドネリアの肩をポンポンと叩いた。アドネリアはしばらく泣き続け、やがて安心のあまりぐっすりと眠ってしまった。

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