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亡国ⅩⅩⅡ 昼⑥〜魂魄の一人芝居

 アルエットの精神世界。人間のアルエットはゆっくりと目を覚ますと、魔族のアルエットが椅子に座り佇んでいた。


「あら、お目覚め?」

「あんた……ああ、またここに来たのね。」


 人間のアルエットはゆっくりと身体を起こし、魔族のアルエットの向かいの椅子に座る。テーブルにはいつの間にかお茶菓子が並び、二人はゆっくりとティーカップに手を伸ばす。


「あんたが私をここに呼んだの?」

「いいや、今回は両方がお互いの意思でここに来てる。」

「デステールはどうなった?」

「気を失ってからのことは私にも分からないわよ。ただ、私が死んでないということは、トドメまでは刺していないみたいね。」

「……そう。」


 人間のアルエットは無愛想に返事をすると、紅茶を半分ほど飲んだ。ティーカップを口から離し、コースターの上にゆっくりと戻す。カチャリという音と共にアルエットはティーカップから手を離し、魔族のアルエットをじっと見つめながら口を開く。


「私が女王の娘じゃないってこと、知っていたわよね?」

「……知っていた、ならノーよ。可能性があるとは思っていたけど。」

「あっそう。なら随分と、今回の私の姿は滑稽に見えたんでしょうね。」

「滑稽?何が?」


 あっけらかんといった様子で人間のアルエットに尋ねる魔族のアルエット。人間のアルエットは思わず恥ずかしくなり、顔を背けながら言う。


「……なんでもないわよ。」

「まあいいわ。とにかく、私は忠告したはずなんだけどね……あんたの考え方が危ういって。」

「……」

「女王の娘として、女王の命令だから魔王を倒すって言ってたけど、実際は女王の娘じゃなかった挙句その女王はあんたの目の前で殺された……。もう一度問うわ、まだ魔王を倒す気でいるの?」


 人間のアルエットは返答に詰まり、押し黙ってしまう。


「即答しなかったわね。」

「……倒すつもりではあるわよ。血が繋がっていなくても、お母様はお母様だし妹たちは妹たち。お母様は……死んじゃったけど、妹たちとこの国を守るためって理由はあるから。ただ……」


 人間のアルエットはそう言って俯き、拳を握りしめ身体をガタガタと震わせる。魔族のアルエットはそれをじっと見つめながら


「……怖かったんだ」

「ッ!!」


 とぶっきらぼうに言い放つ。人間のアルエットは顔を上げ口をパクパクとし何かを訴えようとしたが、言葉にはならなかった。魔族のアルエットは冷たい声音で言葉を続ける。


「まぁ……ものの見事にボッコボコだったものね。得意な強化魔法を封じられたとはいえ、妖羽化(ヴァンデルン)までして本気で女王の仇を討ちにいったのに……あのザマだなんて。」

「くっ……」

「流石にあんな実力差見せられたら後込みするのも当然よねぇ。しかもデステールはただの"四天王"……貴女が倒すべき魔王のただの前座。その前座で心が折れちゃって……、皆の期待も希望も投げ捨てこんな旅やめてしまいたいと思っちゃったんだ。」

「ち、違う……!!」


 人間のアルエットは慌てて否定する。顔は真っ青になっており、身体は小刻みに震えて怯えきっていた。


「違うって……そんな顔で言われても説得力ないわよ。ま、私はどっちでもいいけどね。」

「え……?」

「前までの貴女はあまりに無知だった。女王との関係、セイレーンの忌々しき過去、貴女自身の出生の事実、そして、デステールや魔王との実力差……。これらを一切知ることなくただ女王がそう望むからと、自分自身の理由ではなく他人に与えられた理由に縛られていた。でも今は違う……今はこうして現実を知った。その現実を踏まえて導く結論なら、魔王への無謀な挑戦を続けても全てを諦め尻尾を巻いて逃げるとしても、私はどちらでもいいわよ。」

「わ……私は……」


 人間のアルエットは俯きながら悩む。魔族のアルエットはそれを無言でひたすら見つめていたが、やがて人間のアルエットが顔をあげ答えを告げると、優しく微笑み口を開いた。


「全く、相変わらず頑固なんだから……。」

「ごめんね……でも、人間ってきっとそういうもんなんだと思うの。」

「まあねぇ、振り回される私の身にもなって欲しいわ……それじゃ、いってらっしゃい。向こうじゃ多分、三日くらい経ってるから。」

「あ、貴女!それ早く言いなさいよ!!全く……」


 人間のアルエットは慌てて立ち上がり、精神世界の部屋の扉を開ける。そこで立ち止まり、再び魔族のアルエットに問いかける。


「そういえば……魔族の血でこれ以上強くなったりはできないのかしら。」

「……今の貴女じゃ、多分できないかな。」

「今の?いつになったらできるのよ?」

「貴女次第……明日かもしれないし、永久にできないかもしれないわ。ただ一つだけ……妖羽化(ヴァンデルン)とは、高まる魔力を最適化する姿に変化することを指す……つまり、自分自身をベースに理想を体現する完璧な姿を作り出すことなの。」

「理想を体現する完璧な姿……ねぇ、それがどうかしたのよ。」

「魔族によって魔力量も理想も千差万別だから何を完璧とするかは魔族によって変わる……だけど片翼の姿を完璧、理想だとする魔族なんて……存在するのかしら?」

「まさか……!!」

「そう……私たちの妖羽化(ヴァンデルン)は不完全。私がこれ以上強くなるとするならそこだと思うわ。」

「それは……どうやって!?」

「……今までの話を総合して考えなよ。なんでもかんでも答えを聞く悪癖が出ているわよ。」

「なんで!教えてくれたって……」

「えい!」


 魔族のアルエットはやれやれといった表情で人間のアルエットに近付き、精神世界の扉の外へと蹴飛ばした。


「う、嘘!?いやぁぁぁぁぁ!」

「もう必要なピースは揃ってるんだ。あとは辿り着くだけだよ……私。」


 奈落へと落ちていった人間のアルエットを覗き込む魔族のアルエット。やがて彼女は踵を返しガチャリと扉を閉めた。

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