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亡国ⅩⅩⅠ 昼⑤〜デステール造反

「魔王……あれが……?」


 ガステイルは絶句していた。小さな子供の女魔族という視覚情報が嘘だと訴える……しかし、それ以外の情報と直感がそれを許さなかった。魔王ネカルクはガステイルを歯牙にもかけない様子で、デステールに話しかける。


「ときに、デステールよ……此度はお見事であったのう。」

「……!!!」


 魔王は取り繕った笑顔でデステールを労った。しかし目の奥はまるで笑っておらず、デステールの緊張感は一層強くなる。


「自ら潜入しフォーゲルシュタットの防衛を丸裸にし、邪魔な王女一行を自らの領地に幽閉、その隙に総攻撃を仕掛けるとは……ここまで鮮やかな戦はなかなか見られるものではない。」

「お、お褒めに預かり、光栄に存じます……。」

「まあ、そう恐縮するでない。まだ完全に陥落してないとはいえ、これほどの働きには余も褒美を用意してやろうと思っておったのじゃ。」

「は、はぁ……」

「それだけに……先程の話は残念じゃったのう。」

「……!!」


 ネカルクの威圧感がさらに倍増する。デステールは目を見開き身構える。ネカルクはさらに大きく下卑た笑みを浮かべ言った。


「ここを占領した暁には、人魔共存の国を作り、やがて世界を統一する……これは、余に対する宣戦布告と受け取ってよいかのう?」

「くっ……は、ははっ、そんなことあるわけないじゃないですか。240年前拾ってくださった魔王様を裏切るなど、守賢将の名折れでございます。」

「そうじゃのう……余も、そう信じておる。じゃがな、やはり物証が欲しいのじゃ。余の野望のため忠誠を全うできるかという証拠がのう。じゃから、ほれ。」


 ネカルクはそう言うと、懐から刃渡りの大きな刀を取り出し、デステールの足元へと投げた。デステールがそれを拾った瞬間、ネカルクは心底嬉しそうな笑顔で命令を下した。


「そこで死にかけておるお前の妹を殺せ。そうすればお前の忠誠を認めてやる。」

「なっ……」


 デステールは絶句し、刀を持つ手を震わせながら固まってしまう。進退窮まり呼吸が荒くなるデステールを、魔王ネカルクは悪い笑顔でけしかける。


「できぬなら、余はお前を殺さなければならなくなるのう。有能な部下が減るのは余も嫌じゃ、とっとと殺してくりゃれ。」

「デステール!!待て……お前、それだけはダメだろうが!!!」


 デステールはゆっくりとアルエットの身体の方へと歩みを進める。ガステイルも身体を引きずりながらアルエットの元へ進むが、間に合うはずもなくデステールは剣を振りかぶった。


「やめろぉぉぉぉ!!!!」


 しかし、その剣が振り下ろされることはなかった。デステールは剣を振りかぶったまま


「ククク……ハーッハッハッハッ!!」


 と突如として高笑いをあげる。


「どうしたデステール?おかしくなったかの?」

「おかしくなんかなってねえよタコ。最初からお前に忠誠なんぞ持ち合わせてなかったんだよ。そう思うと随分とお前が滑稽に見えてな。」

「ほほう、余に向かってタコとな……それが何を意味するか分からぬお主じゃなかろうに。」

「……無論だ。妹を手にかけるくらいなら叛逆を選ぶぜ。覚悟しやがれ、魔王!!」


 デステールはネカルクに啖呵を切ると、剣を構えて猛スピードで突撃する。魔王の顔から笑みが消え、剣の間合いに入りデステールが勢いよく振り下ろした瞬間、


「がふっ……」


 魔王の白い髪が凄まじい速さで伸び、デステールに突き刺さった。デステールは剣を落とし、傷を押さえてよろめく。


「うぐ……がはぁっ……」

「失望したぞデステール。じゃが、240年もよくもってくれたと思うべきじゃろうか……」


 ネカルクはそう呟くと、髪を束ね八本の触手のようにしてデステールに追い打ちをかける。その一方的な蹂躙を、ガステイルは棒立ちで見つめるしかなかった。


「う……嘘だろ、あのデステールがここまで……」


 やがて触手がゆっくりと引いていくと、全身血まみれでボロボロになったデステールが立っていた。剣を地面に突き刺し肩で息をしているデステールから興味を失ったネカルクは、ようやくガステイルに視線を向けた。


「さて……仕置きはこれまでとして、余自らがこの不届き者達を処理せねばのう。」


 ネカルクは触手をもたげ、ゆっくりとガステイル達に狙いを定める。ほどなくして放たれる触手に、絶体絶命のガステイルは目をぎゅっと閉じる。しかし、触手は見えない壁に阻害され、途中で止まってしまう。ガステイルが辺りを見回すと、満身創痍のデステールが右手をかざし結界を展開していた。


「何ッ……デステール!!」

「ハァッ、ハァッ……」


 ネカルクは怒りを露わにして息も絶え絶えのデステールを睨みつける。しかしすぐに些事と断じたネカルクはそのまま触手に力を込めあっさりと破壊してしまう。その瞬間、アルエット、ルーグ、アムリス、ガステイルの姿が消えてしまった。


「なんだと……」

「ハッハッハッ……お、お前は必ず、ムキになって物理攻撃に拘ると思ってたぜ……だから、張らせてもらったのさ……物理攻撃であっさり壊れる魔法障壁を、瞬間移動の自壊効果のオマケ付きでな。」

「貴様ァ!!!調子に乗るんじゃないぞッ!!!!」

「そうだ……その通り、お前はこの挑発に乗ってもう一度僕を物理攻撃でチリにするはずだ……だから」


 先程とは比べ物にならない速さで唸る触手がデステールを襲う。デステールに触れるコンマ数秒前、小さくパリンと何かが割れた音がする。その瞬間、デステールの姿もはるか彼方へと消えてしまった。


「チッ……小癪なやつ、必ず見つけだして……」


 怒りに任せ王座の間をぐるぐると見渡しながら呟くネカルク。すると、城門の方向から轟音が響く。ネカルクは急ぎバルコニーに飛び出して様子を確認する。


「……王都陥落、じゃのう。」


 城門及びその周囲の城壁は破壊され、なだれ込む魔族によって人間たちは踏み潰されていた。ネカルクは逃した者たちのことなど気にかけることなく、拳を力強く握りしめた。

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