八話
マリー達は夜の王都を貧民街を目指し駆ける。
人目を避けるためかつ最短距離で到達するため、ルイは屋根から屋根へ飛び移り、マリーは自身の魔法で空を飛んでいた。
ソフィアはマリーの魔法によって運ばれている。
貧民街へ着いた一行は、敵の拠点である何年も手入れされていない二階建ての建物へ辿り着いた。
「ここね」
「はい。ここの地下に敵のアジトがあるようです」
アジトには、見張りがいない。
恐らく、自分達の変装がバレることがないとたかを括っているのだろう。
そう考えたマリーはルイに指示を出す。
「ルイ、敵を引き付けなさい。できるだけ多く。そのあとに私達がアジトへ潜入するわ」
「承知しました。敵のボスは身体強化系の魔道具を持っているようですのでお気をつけください」
そう言うと、ルイは敵のアジトへ堂々と正面から向かって行った。
「マリー様、相手の数が分からないのにルイ様一人で向かわせてよろしいのですか? 」
「分からないからよ。数も強さも未知数。私がいくら強くても数が多すぎたらあなたを守れないかもしれない。でも安心しなさい。ルイは強いわ。勝てない敵が現れたとしても逃げながら私達の時間を稼ぐ事は可能よ」
「そうでしたか。ルイ様はお強いんですね」
ソフィアはマリーから強く信頼をされているルイがどのような強者なのか少し興味を持った。
「そうね。さぁ、話はおしまいよ。ルイと敵が交戦したわ」
敵のアジトから怒号や悲鳴が聞こえてきた。
その後、すぐにルイが逃げるように出てきた。
追うようにアジトから続々と人が出て行く。
アジトから出てくる者がいなくなるとマリーはソフィアをつれアジトに潜入した。
アジト内は臭く、マリーとソフィアの顔は険しくなり、両者共に鼻を服で覆った。
「さっさと用を済ませましょう」
マリーは周りを見渡す。
すると先程ルイを追う為に出てきたのだろう、地下への通路口が開けっぱなしになっていた。
通路口はどうやら床の一面に設置してあったようで、初見じゃ見抜くのは難しいだろうとマリーは考えた。
「行くわよ」
その問いかけにソフィアは頷きを持って返す。
地下へ続く道をなるべく足音を立てないようゆっくり下って行く二人。
異臭が強くなってきた。
二人の顔がさらに険しくなる。
アジトの地下へ到達する。
通路はマリーとソフィアが二人並んで歩けるぐらいであった。
左右には牢屋のような部屋があり、奥の扉まで続いているようだった。
「ひっ……」
「ゲスどもが」
マリーとソフィアは牢屋の中を見た。
その中には攫われたであろう令嬢が見るに堪えない姿で床に転がっていた。
その顔には涙の跡がくっきりと残っていた。
「行くわよ。ソフィア」
「……はい」
奥の扉までの間に何人もの令嬢が同じような目に遭わされていた。
ソフィアの体は震えていた。
奥の扉をマリーは魔法で吹き飛ばした。
「んだぁ」
そこには二人の男がいた。
一人は縄で縛られ血だらけになって倒れていた。
もう一方の男から暴力を受けたのであろう。
息をしているのが不思議なくらいの重症なのが見てとれた。
また、着ているものを奪われたのだろう、男は服を着ていなかった。
もう一人の男は大柄な体格で上半身裸であった。
その体は血に染めていた。
殴り終わり一息ついていたのだろうか、その部屋に唯一ある椅子に腰掛けていた。
「ニコラ! 」
ソフィアは倒れている男、ニコラに駆け寄った。
「なんだぁ。お客さんにしては随分と綺麗だなぁ。俺と遊びに来たのかぁ」
大柄な男は椅子に腰掛けたまま侵入者であるマリー達を下から上までくまなく見る。
「はい。しかし、私は高貴な身分ゆえ、値段は高くなっております。つきましては、お代として貴方の四肢を頂けませんか? 」
マリーの魔力が膨れ上がる。
大柄な男が椅子から立ち上がった。
「いいなぁ。俺はそういうお嬢様がタイプなんだぁ。たっぷり調教してあげたいなぁ。その口二度聞けなくしてやりたいなぁ! 」