四話
「やあ、待たせたね」
レオンが王城から出てきた。
「随分とレディを待たせるじゃない」
マリーは10分程しか待っていないが、遅れてきたのにも関わらず笑顔で歩いて来るレオンに少し腹が立っていた。
「すまない。妹に別れの挨拶したかったんだが、なかなか見つからなくてね」
レオンは申し訳なさそうに笑った。
「たかが一ヶ月離れるくらいでしょ」
マリーは呆れたように言い放った。
「一ヶ月も離れるんだ。俺は今にも胸が張り裂けそうだ」
レオンが大袈裟に体を捩り、張り裂けそうな心を再現した。
「ローズに挨拶はしなくてよかったの? 」
マリーが意地の悪い笑みを浮かべて尋ねる。
「一週間前から実家に帰っているよ。大方君が何かしたんだろう。全く余計なことをしてくれるね」
レオンはマリーを睨みつけるが、マリーは気にせず馬車に乗った。
それを見たレオンは後を追うようその馬車に乗り、マリーの向かい側に座った。
ルイは馬車に乗った二人を見送ると、一人馬に乗ろうとするがマリーに呼び止められる。
「ルイ、何をしてるの早く乗りなさい」
「しかし、同席してもよろしいのでしょうか? 」
ルイはマリーに仕えているとはいえ、流石に王子であるレオンと同じ馬車に乗れないと考えていた。
「構わないわよ」
マリーは即答した。
それに続いてレオンが答える。
「ああ、構わないよ。ルイ君に依頼したいこともあるしね」
「私にですか? 」
「そうだ。まぁその件は馬車に乗ってから話そうじゃないか」
「かしこまりました」
ルイは馬車に乗った。
マリーが自分の隣の席を叩くのを見たルイはその席に座った。
全員が乗ったことを確認した御者は馬を走らせた。
「でルイに依頼って何? 」
マリーがレオンに少し強めに話しかける。
レオンの顔が真剣になる。
「ルイ君にはパーティーに来る貴族を調査してもらいたい」
「調査ぁ? 」
その言葉にマリーが答える。
ルイは話を聞く姿勢をとる。
「そう、調査だ。タリア国では貴族令嬢が狙われる事件が相次いでいてね。犯行は決まって貴族のパーティーが行われる日に起こる。手口としては貴族令息に扮し令嬢に近寄り、甘い言葉で誘惑し会場の外に抜け出す。会場を抜け出した男女を追うものはいない。側から見ると貴族同士の密会だからね。覗き見なんて使用人達ができるわけがない。そして人目のつかないところで誘拐する」
「厄介なのは相手がその後、何も要求してこないことだ。それだと手がかりが貴族のパーティーに来ることしかわからない。パーティーに来る貴族を調べようとしても相手との関係を悪化させる場合がある。これじゃあお手上げだ」
「それで王女のパーティーに来る連中全員を調査しろって言うの? それともアジトでも突き止めろって? 」
「そんな無茶なことは言わない。ルイ君には会場の外に抜け出す男女を尾行し、怪しい動きがないか調べてほしい。ルイ君なら相手に悟られることなく調べられるだろう」
ルイはマリーの顔を見る。
「いいわ。その依頼引き受けてあげる」
「ありがとう。助かる。怪しい人間がいたらその場で拘束して構わない。責任は俺が取る」
「誘拐された令嬢達は助けなくていいの? 」
マリーは誘拐された令嬢のことが気にかかった。
誘拐の目的が金でない以上、体が目的であることは明白だと考えていたからだ。
「できれば助けたいが、俺達が滞在している間に解決できるかわからない。それに俺達は他国の人間。それも王子と公爵令嬢だ。表立って動くことはできない」
いつの間にかレオンは眉間に皺を寄せて話していた。
「それなのにルイに依頼は出すのね」
「だからといって放って置くことはできない。ルイ君なら執事がたまたま捕まえたことにできる」
「そうね。ルイ、絶対に相手を捕まえなさい」
「承知しました」
ルイはレオンやマリーの想いに応えるために必ず犯人を見つけると心に誓った。