十話
戦闘を終えたマリーは壊れた階段を魔法で修復していく。
元の形に戻った階段を登り敵アジトの一階に戻ったマリー。
「マリー様、おかえりなさいませ。お怪我はありませんか? 」
外に出るとルイが待っていた。
後方には気絶した盗賊団の男達が、積み重なって山となっていた。
「大丈夫よ。それよりソフィア達は? 」
「彼女達は敵アジトの2階の一番手前の部屋にいらっしゃいます。手当ては手持ちのポーションで応急処置をいたしました。今すぐ死ぬことはないでしょう。最も重症であることに変わりありません」
「そうね。ルイ、ここの見張りお願いね。私は王城にソフィア達を連れてくわ」
「承知しました」
マリーはアジトの二階へと進んでいった。
アジトの二階に着く。
部屋はいくつかあった。
手前の部屋に入る。
部屋の中にはベッドに横たわるニコラと彼に寄り添うソフィアがいた。
「帰るわよ」
マリーはソフィアにだけ聞こえるように言う。
「はい」
ソフィアが立ち上がる。
マリーはこのまま二階から魔法で出ていこうと窓を開けて部屋にいる全員を風で包み込む。
部屋を飛び出した三人はここへ来た時とは違い、ゆっくりと王城へ向けて飛んでいった。
「マリー様、私強くなりたいです」
ソフィアはニコラを抱きしめる。
「ニコラを守れるほど強くなりたいです」
「精進することね」
マリーは淡々と答えた。
「はい」
王城に着いた三人は、レオン達がいる部屋へ向かった。
「入るわよ」
マリーは中にいるであろうレオン達に声をかけて部屋に入る。
「なにがあったの? 」
部屋の中には騎士が数人と貴族令息らしき人物が縄で縛られて床に転がされていた。
全員気絶している。
マリーは魔法でニコラをベッドにゆっくりと下ろしながらレオンに聞く。
「俺らの動きを嗅ぎつけたんだろう。急に襲ってきてね。返り討ちにしたまでさ」
レオンはなんでもなかったかのように話す。
「バレたと思ったなら逃げればいいのに。馬鹿な連中ね」
マリーの言葉にレオンが真剣な顔になって答える。
「そうでもないよ。彼らは記憶操作の魔道具を持っていてね。それで俺らの記憶を改竄しようとしたわけさ」
「用意周到ね」
「そうだね。でもやり方がお粗末過ぎる。そこに転がってる貴族から色々聞いたんだけど魔道具は人からもらったらしいんだ。ただ、顔も性別も姿形さえ思い出せないと言う。厄介なことになったよ」
「それはこの国に任せましょう。とりあえず、王都にあったアジトは潰したわ」
「ご苦労様」
「ところで王様は? 」
先程から見かけない国王の居場所を訪ねるマリー。
「ロレンツォ様はソフィア様が戻ってこないのを心配して王城内を探し回ってるよ。メイドが裏切ってるかもしれないからって自分の足でね」
レオンは優しい笑みを浮かべて話す。
そこにロレンツォが扉を大きい音を立てて開く。
「レオン殿! ソフィアが見つからない! 王城を隅から隅まで探したがいないのだ! やはり盗賊共に拐かされのだ。こうなっては私一人でもアジトに向かう! ここはレオン殿に任せても良いか! 」
レオンは苦笑いを浮かべながらベッドを指差す。
ロレンツォは首を傾げた後、ベッドを見る。
そこにはニコラを介抱するソフィアの姿があった。
「ソフィア! 無事だったのか! 今までどこにいたのだ? 」
ロレンツォは急ぎ足でソフィアへ向かう。
「私はマリー様に着いていきました」
ソフィアはニコラの顔を撫でながら答える。
「危険ではないか!それにマリー殿の足手まといになるであろう? なぜ着いていったのだ? 」
「私はニコラを助けたかったんです」
ソフィアはロレンツォの方を向いた。
「私はニコラと結婚したいです。たとえお父様が反対し、婚約者を仕立て上げようと、私はニコラと添い遂げたいです」
ソフィアの瞳には強い力が宿っていた。
「気づいていたのか」
「はい」
「確かに私はソフィアの婚約者を決めていた。私が婚約者にしたいと思った人物はそこで眠っているニコラだ。」
ロレンツォは目でニコラを示す。
ソフィアは驚きのあまり声も出ない。
「確かにお前たちには身分の差がある。ニコラは王族の婚約者としては不十分だろう。ただ、その身分の差を超えて愛し合う二人を私には引き裂くことができない。そう思ってな」
ロレンツォはソフィアに微笑みかける
「お父様っ!」
ソフィアは涙を流しながらロレンツォに抱きつく。
「ははっ。まぁ彼には王女がまた無茶をしないよう強くなって欲しいがね」
「大丈夫です。私がニコラの分も強くなります」
「逞しく育ってくれて嬉しいよ」
二人はしばし抱き合った。
「さて、待たせてしまったね」
ロレンツォがマリー達に体を向けた。
「構わないわ」
「ありがとう」
「さっそくだけど、アジトに人手を回してくれるかしら? 荷物が多くて」
「わかった。ただちに向かわせよう」
ロレンツォは兵を出す為に部屋を出た。
「しかし、今回は災難だったね。婚活のこの字もできなかっただろう」
マリーはなんのことを言っているのかわからず少し考えた。
「……あ」
「まさか忘れていたのかい? 」
レオンが笑いながら指摘する。
「そんなことないわ。いい人が見つからなかっただけよ」
マリーは腕を組みレオンがいる方向とは逆を向いて言う。
「そうか。それは良かった。元々脈なししかいないなら気にする必要がなくなったよ」
レオンはホッと安堵した。
「ん? そういえばここにくる馬車でルイに見張りを頼んでいたわよね。事件が起こる確証でもあったのかしら? 」
「ああ。情報から推察すると貴族に盗賊と繋がっている人物がいるのはわかったからね。貴族を狙う連中だ。一番集まる王城で彼らが動く可能性は高かったよ」
「と言うことはあれかしら? 私の婚活に集中できない状況になることを知って私の依頼を受けたのかしら? 」
「正解! やられっぱなしは嫌だったんでね。利用させてもらったよ。タリアに恩を売れたし、君に嫌がらせもできたし、一石二鳥。文句なしの結果で終わったよ」
レオンの笑顔から心の底からの喜びを感じられる。
その間、マリーはプルプルと震えていた。
「おっと勘違いしないでくれよ。俺は他国に行きたいと言う君の願いを叶えたんだ。婚活を成功させたいとは言われてない。それによく考えれば他国に来たって俺達が会うのは貴族だよ、貴族。婚約者の一人や二人いるのは当たり前だろ? どの道、婚活は失敗してたよ。ドンマイ! だから俺を恨むなよ」
震えるマリーを悔しがっていると思ったレオンは今回のことで言いたかったことを全て言った。
彼の心が潤っていく。
彼の笑顔がより一層輝いた。
マリーは無言でレオンの腕に自分の腕を絡ませる。
「おやどうしたんだい? 」
「お散歩に行きませんか? 」
「……俺は遠慮しておくよ」
マリーの暗い声が聞こえて、危険信号を感じ取ったレオンは断った。
「遠慮なさらず。大丈夫です。お代は半分でよろしいので」
マリーは自分の腕を解こうとするレオンを引き連れて扉の前に来た。
「……お金とるんだ」
「お金はいただきません」
部屋を出る二人
「……じゃあ何を取るのかな? 」
マリーが魔法で防音の円形のドームを作った。
「命を」
「ぎゃああああああああ」
レオンの悲鳴をマリー以外聞くこと者はいなかった。