九話
大柄な男がマリーへ肉薄する。
マリーと男の間には5mあったが、その距離を男は一瞬で詰めてきた。
男はマリーの顔目掛けて拳を振るう。
その拳は空を切った。
「んだぁ」
男は後々の楽しみのため、手加減をしていた。
しかし、反応できる速度ではないはずと疑問に思った。
マリーはこのアジトに入った時に身体能力を上げるボスに対抗する為、身体強化の魔法をかけていた。
そのおかげで、男の速度に反応できた。
マリーは避けられた事に疑問を持った事で動きを止めた男に対して風の弾丸を男の腹に向けて放つ。
男は吹き飛ばされ壁に激突した。
男と距離を離したマリーはソフィアとルイの元へ行き、彼女達と男の間に自分という壁を作った。
「ソフィア、その男を連れてこの部屋を出なさい。貴方達がいると邪魔だから」
マリーは壁に埋もれている男を見ながら言った。
「……でも」
「いいから。行ってちょうだい」
「……はい」
ソフィアはマリー一人を置いて行くのが不安だった。
恐らくあの男は盗賊団のボス。
そんな危険な人物とこれから戦う彼女が心配だったのだ。
けれども、自分達じゃ足手まといになる。
それに隣にいるニコラはいつ死んだっておかしくない状態。
一刻も早く回復術士に見せる必要があった。
マリーの助太刀も、ニコラを治す事もできない自分を苦々しく思いながら、ニコラを抱えてこの部屋を去っていった。
二人が部屋から去っていたのを確認したマリーは、部屋の扉の前に移動したあと、壁に埋もれたまま動かない男目掛けて風の弾丸を何発も打った。
男に命中する。
十発打った頃に男が動き出した。
それを見たマリーはもう一髪風の弾丸を食らわせた。
しかし、男の体がよろめいただけでダメージは入っていないようにマリーには見えた。
「随分とタフなのね? それも道具の力かしら? 」
「よく知ってるなぁ。やっぱりあの野郎やられちまったのかぁ」
男は吹き飛ばさた後なぜ魔法使いであるマリーが自分の攻撃を避けられたのか考えていた。
身体強化が使えるとしても、不意をついた。
自身の能力を知らない限り反応できない。
だが、マリーは反応した。
予想外の事で考え込んだが、仲間が口を割ったとなれば話は別だった。
よく考えればマリー達が入ってきた時点で仲間が囚われた事を考えないと、と男は思った。
「俺のことを知ってるのかぁ。やりにくいなぁ。出力を最大にするしかないかぁ」
男は魔道具の出力を最大にするため魔力を魔道具に集中させる。
マリーは男の体内魔力が薄くなったタイミングで風の弾丸を先程とは比べ物にならない威力で打ち込んだ。
男は魔力に集中しているため食らった。
男の腹から大量の血が出るが、気にせず魔力を魔道具に送り込んだ。
男は腹に力を込め無理やり止血した。
「腹の借りはぁ、たっぷり返してもらうからなぁ! 」
男はその場でマリー目掛けて拳を振るった。
凄まじい速度の振りだった。
マリーはその拳によってできた衝撃波により、部屋から弾き飛ばされる。
飛ぶ自分の体を風の魔法で減速させる。
速度を殺しきり地面に着地する。
背後を見ると、マリー達が通ってきた階段があった。
飛ばされた距離に驚いたマリーだったが、目の前に自分を弾き飛ばした男が拳を振り上げているのが視界に映った。
間一髪、しゃがみ込む事で回避したマリー。
回避された拳は階段を吹き飛ばす。
マリーは強風で男を部屋まで吹き飛ばした。
男はすぐに部屋から出てきた。
「なんだぁ。この程度かぁ」
(あの男が言ったことが確かなら、これ以上の力はないわね。変な隠し球があると思って警戒したたけど杞憂だったようね。ソフィア達が心配だしそろそろ決着をつけようかしら)
マリーはこの戦いを終わらせるため右手に魔力を集中させた。
そして、風の刃を放つ。
凄まじい速度で迫る刃に男は反応できず、あっけなく四肢を切断された。
「うぎゃああああああああああああ」
男の悲鳴が通路にこだまする。
その後マリーは男に身体強化で素早く近づき、切断面を火の魔法で止血した。
「ぎいやあああああああああああああ」
「あまり騒がないでくださいませんか? 私は約束通りお代を頂いただけなのですから」
男はあまりの痛さに泣きながら失神した。