スキルを初めて使ってみたこと
ショッピングモールのフードコートには親子連れもいるし、わいわいと騒がしい若者のグループなんかもいた。夏休みだからな。男女で同数。グループデートだろうか。生前の僕はそんなものには縁がなかったな。いやそれどころか……。
「混んでるわね」
ミオラのお母さんがフードコートの様子を見て言った。
「うん」
僕は店ではなく、フードコートに来ている客たちの顔を眺めながら答えた。
僕は自然と立ち止まった。客たちの中に僕の知っている顔がある。
男子だけ三人のグループだ。生前の僕の記憶のとおりの顔ぶれ。山田、中村、小泉。ああ、いつか会う時が来るとは思っていたが意外と早かった……。僕の心臓の鼓動が速くなっている。
「ミオラ、どうしたの? 具合悪いの?」
「……ううん」
ミオラのお母さんの問いかけに曖昧に答える。
どうしよう。このままやり過ごすか? いや、この緊張は僕の魂に刻まれているのだ。このまま生前の悪縁を新しい人生でも引きずるなんて。新しい人生でもあいつらの影に怯えて生きるのか? せっかく別人に生まれ変わったのに、このままで良いわけがない。
生前の僕は彼らにイジメを受けていた。僕が死んだのはあいつらのせいだ。それなのに、あいつらは何の罰も受けずに、あろうことかこの僕の目の前で楽しそうに笑っている。こんなこと許されるのか。
やると決まったら早かった。僕の身体から僕が作ったスキルである透明なボディガードが出て彼ら三人のところまで進んでいった。
何も知らずに楽しそうに三人が笑っている。
ムカつくんだよ!
次の瞬間、三人が囲んでいたテーブルがドンッと大きく飛び上がった。僕の透明なボディガードがテーブルを吹っ飛ばしたのだ。
「うお! なんだ!?」
「きゃあ!!」
フードコートの中は騒然となった。
何が起こったかわかっていない三人を、僕の透明なボディガードが更に跳ね飛ばしていく。
ふはは。いい気味だ。
生前の僕にこの力があれば、もっと面白かったんだけどな。
「ミオラ! 大丈夫!?」
「え? あ、うん」
フードコートの三人に気を取られていて気付かなかった。ミオラのお母さんは僕を庇うように抱いていた。そりゃ、こんな騒ぎが起こったら娘を庇うのは当然か。
まあ、やりすぎないようにしよう。新しい人生に支障があってはいけないし。僕は透明なボディガードを引っ込めた。初めて出したけどなかなか強くて素敵だ。こいつにも名前をつけたいな。
フードコートの中が落ち着いたのを確認したミオラのお母さんが再び僕に話しかける。
「ミオラ、大丈夫……?」
「うん。大丈夫」
「ねえ……なんで、笑ってるの……?」
「え?」
僕はその時までミオラのお母さんの顔をまったく見ていなかった。僕が見たミオラのお母さんの顔は、まるで信じられないものを見たというように悲しみと恐怖が入り交じったような複雑な表情をしていた。