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門番 (5)

「やばいやばいやばいやばいしぬしぬしぬしぬ……!!」

森の中を闇雲に駆け抜けていく。普通に後悔してきた。まだ遠目だったというのにこちらを捕捉したその威圧感だけで小便が漏れそうになった。体躯に比べて翼が小さく見えたから地竜の類だと思うが、なにぶん初めて見るので自信はない。そうだとするなら飛び上がってブレスで一撃ってこともないはずだ。森が半分無くなってたって話だったが延焼が酷かったのだろうか。しかし何も考えずにここまで来たが、こんなにあっさりと見つかると思っていなかった。あのデカさなら見つかるに決まっていたのだが、本当に何も考えてなかった自分に呆れてくる。恐怖で足が止まりそうになる。

「フフフ……ワハハハハハ!!」

声に出して笑う。昔教わったことだ。動けないほどビビったら逆に笑え。心ってのは体についてくるもんだ。あるいは命の危機を感じすぎてテンションが上がって馬鹿になっているのかもしれない。アイツの顔が脳裏に浮かぶ。混乱している場合ではない。冷静になれ。冒険者時代のことを思い出す。心は熱くなってもいつだって頭は冷静に、自分を見つめるもう一人の自分を意識する。落ち着くと自分を追いかけてくる足音が聞こえてこないことに気づき、ゆっくりと足を止めた。

一息つく。冒険者を辞めてから門番になっても毎朝のトレーニングは欠かしたことがなかった。体の強さは全てに繋がる。これも冒険者時代の教えだ。そこまで息が上がっていないのは疾風のおかげでもある。東方の出身だとかいう僧侶から教えてもらったこの魔法は(厳密には魔法じゃないとそいつは言ってたが俺にとっては不思議な現象は全部魔法だ)、世界から魔力を借りたり、自分の魔力を練り上げるのではなく、体内を巡る脈とそれを支える軸の力を適切に引き出すとかどうとか言っていた。使っても疲労感が少なく、魔力枯渇症にもならない。ただし使いすぎると単純に体がぶっ壊れる。2回までは何も問題ない。3回目になると2、3日全身筋肉痛になってのたうち回る。それ以上を超えると筋肉が千切れたり内臓が吹き飛んだりするらしいが、まだ試したことはない。その僧侶には適当な理解でこれだけ使えてるのは凄いと言われたが、逆に言えばこれ以上使えるようにもなれなかった。ここに来るまでとドラゴンと目が合った瞬間に使ったので合わせて2回。使うならあと1回までにしたい。

冒険者時代に培ったもので俺は生きてるんだなと実感して、さっきとは違う笑いが込み上げてきた。手放したと思ったものがしっかりと自分の中で生きている。

「……よし」

心が落ち着き、息が完全に整うまでしばらく休憩した。現状を整理する。手元に槍はない、逃げてる途中で放り投げた。鎧はそのまま、門番の装備は走れるように軽装だ。疾風はあと1回。闇雲に走ってきたが遠くに見える山の位置と太陽の位置から大体来た方角はわかる。ドラゴンがまだ警戒状態にあるかもしれないので注意を払いつつ、ゆっくりと戻りながら捨てた槍とアイツの痕跡が何かないか探そう。


槍はすぐに見つかった。そこでたまたまアイツがよく話していた、森の深くで薬草が大量に自生している場所までの目印の岩が見つかった。少し人の形に見える岩で、丸い頭とそれより太い体があり、アイツは薬草を摘む前にお祈りしていると言っていたが、少し下品な形にも見えて口角が上がる。なんとはなしに目を閉じて、アイツが無事でありますようにと、祈りを捧げる。信じる神はいないのでアイツが祈っていたらしいコイツに想いを乗せてみる。

祈りはサッと切り上げて話通りに道なき道を進んでいくと、そこには……さきほどのドラゴンがいた。薬草も周囲に大量に生えている。

息を潜めて草陰に潜みドラゴンを観察してみる。眠っているのか、目を閉じて丸くなっている。小さく見えた翼はどうやら半ばから切り落とされたようで、地竜ではなく火竜、ただしく御伽話に出てくるドラゴンのようだ。ということは森を燃やしたのはやはりコイツが…?全身に傷が目立ち、片目からは血が流れている。喉元には何かが刺さっており、形状的に剣の中ほどから先か、抜けずにいるなら結構深く刺さっているのかもしれない。生きているのが不思議なほど満身創痍だ。暴れ切った後に俺を追いかけて残っていた体力を使い果たしたのか、休息をとっているらしい。逃げた俺にブレスを吐いてこなかったことを考えると、喉元に刺さっている剣が火を吐くのを邪魔しているのかもしれない。

しかし……あのサイズの剣なら……アイツが持っていたものに見えるが……いや、まさかそんな、折れた剣が見つかって、その先があそこにってそれならドラゴンをあそこまで傷つけたのはアイツってことになる。


カサカサ…。


背後から音がした。まずい。この状況で魔獣と交戦したくはない。槍を握りしめる。緊張を走らせながら音の鳴る方を睨んでいると、そこから出てきたのは


泣きそうな顔をした、10歳ほどの子供だった。

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