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門番 (4)

「グオオオオオオォォォォ!!!!!!」

目の前にドラゴンがいる。目の前にドラゴンがいる。目が合った。こっちにくる。やばい。俺は身を隠すため森に飛び込んだ。広い場所に出ると一瞬で捕捉される。凄まじい足音が近づいてくるのが聞こえるし地響きで体から感じている。

なんでこうなった?何で俺はドラゴンに追いかけられている?数時間前の出来事が頭を駆け巡る。


アイツの折れた剣が見つかった。おっさんからそれを聞いた俺はその後のおっさんの話をよく覚えていない。とにかくギルドと相談して討伐部隊を組むから何かあったら教えろみたいなそういうことを言っていたはずだ。

去り際に何か俺に対して言っていた気がするがよく聞こえなかった。そんなことよりアイツが死んだ可能性で頭がいっぱいだった。それよりも門番としてはドラゴンが近隣に出現したことを気にしないといけないのだが、実際のところ恐らくではあるがドラゴンはこの街にとって存亡を懸けるほどの脅威ではない。一般住民や訪れている商人にとってはそんなことはなく生命と生活の危機ではあるし、脅威ではないからといって出歩かれると普通に死者がでる。恐らく脅威ではないというのはおっさんのようなベテランの冒険者やいつもなぜかこの街の酒場で飲んだくれている天剣が普段受けているクエストは公にはなっていないがドラゴンよりもっとヤバイ相手のはずだ。情報が不確かなのは俺が冒険者時代に噂で聞いたものでしかないからだ。とはいえその話を聞いたのは一瞬とはいえパーティーを組んだ剣士から聞いた話で(パーティーを組んだ経緯は思い出したくない)、口は軽いが実力は確かだったそいつはもう冒険者としても最高のランクに到達する手前で、もうすぐそういったクエストを国から受けるかもしれないのが面倒だ憂鬱だと酒の場で愚痴ってきた。信憑性はあると思っているし、実際俺の知らない場所で何度か世界は救われたらしく王都では勇者だ英雄だとたまに表彰されているやつがいる。あの頃は俺もいつかそこにと思ったが今じゃ門番をやっている。ドラゴンにすら挑戦する実力も気力もない。英雄なんて子供の憧れだ。そういったことは本当に才能があって実力がある人がどうにかしてくれるもんだ。

だから今回もきっとそうだと思った。

でも、アイツは?

アイツはそこに到達するかもしれなかった。俺にはそう見えたし、おっさんも気にかけているようだった。

でもまだ早い。まだドラゴンは無理だ。冒険者になって半年でドラゴンの討伐なんてあの天剣ですら成し得てない。

じゃあ、死んだのか?

未だにアイツは帰ってきてない。ドラゴンが見つかった。その近くで折れた剣が見つかった。

状況証拠は十分だ。

「モンバンくん、大丈夫ですか?」

上司が話しかけてきた。

「……ひどい顔してますよ」

「え?あ、あぁ……そうですか?」

なんて返したらいいかわからなかった。アイツが死んだかもしれない。まだ決まってない。しかし悲しめばいいのか。怒ればいいのか。胸の中でグルグルと感情が渦を巻いている。いっつも挨拶をしてきてたまにちょっと長く話す。昨日何を食べた。何を倒した。ダンジョンの中でこんなことがあった。俺より遥かに将来有望で、でもなぜか俺の周りをチョロチョロしていることが多くて、気づけば若手の中ではすごい成果を上げていて、その才能に嫉妬しなくもなかったが、それより日々成長していくその姿がただ眩しかった。もう諦めた俺が、それを見守れるなら、俺の人生も悪くないと思えていた。

「少し兵舎で休憩しますか?」

「は………はい………そうしま、す……」

上司が不安そうにしつつも俺から離れていく。

考えがまとまらなかった。門の方を向いて街に歩き出そうにも足が出なかった。今、休憩するか?と聞かれて、そうしますと答えたのに、俺はボケっと突っ立っている。


何か決意した訳でもなかった。

覚悟はとうの昔に忘れてきた。

そうするべきではなかった。


でも俺は、アイツが昨日向かったであろう森に向かって走り出した。

絶対にこの行為は間違っている。俺一人では何も出来ない。ギルドの対応を待った方が良いし、所属している部隊にも迷惑をかける。それでも確信があった。今行かないと、すぐ行かないと後悔することになる。何かが手遅れになる。そして俺には向かうための術がある。


上司の声が後ろから聞こえる。

「疾風」

冒険者時代に唯一得意だった敏捷性上昇の魔法を唱える。

持っているのは門番に支給された槍一本。鎧は関節を守る程度しかない軽装。

絶対に無謀だ。

ドラゴンに見つかったら死ぬ。

行っても何もできることはないし、何も見つけられないかもしれない。

わかってる。そんなことはわかってる。

でもアイツが死んだかもしれないなら、自分の目で確かめたかった。

全てが終わった後で、人から話で聞いて、悲しいことがあったと過去にしたくなかった。


冒険者として終わって、門番として生きるこの命くらいなら、賭けてやらないとアイツにしてやれることが何も思い浮かばなかった。

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